最新記事

事件

「英雄」中村哲医師、誰になぜ襲われた? 水利権トラブルに巻き込まれた可能性も

2019年12月12日(木)11時00分
浅野 貴志(ジャーナリスト) *東洋経済オンラインからの転載

反政府勢力タリバンに加え、近年はイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)が競うようにテロ攻撃を行う。犯人として念頭に浮かぶのは、このどちらかだ。

タリバンは事件当日、即座に「復興分野で活動するNGO(非政府組織)はイスラム首長国(タリバン)と良好な関係を持っている。それらは軍事的標的ではない」と犯行への関与を否定する声明を発表した。

国際的な反発を招きたくないタリバン

タリバン内部は穏健派から強硬派まで数多くの派閥に分かれており、この「無関係宣言」が即座に信頼できるわけではない。ただ近年、タリバンが海外の支援者を積極的に襲撃することは減っているとされる。

タリバンは自らをアフガンの支配者と認識しており、アメリカ軍をはじめ外国勢力の早期撤収を望む。支援関係者を攻撃することは国際的な反発を招き、逆に外国軍の駐留長期化にもつながりかねない。もちろん、疲弊した国土の回復に海外の支援の手が必要という計算も働く。

ではISの犯行なのだろうか。ナンガルハル州はISの分派である「ISホラサン州」の勢力が特に強いことで知られる。11月以降、アメリカ軍と政府軍による掃討作戦が進み、ガニ大統領はIS勢力を「根絶やしにした」と宣言したが、その言葉を額面どおりに受け取る向きは少ない。数は減ったかもしれないが、影響下にある過激派はなおうごめく。

ISは自らの犯行の場合、傘下メディアとされるアマーク通信などを通じて成果を誇示することが多い。最近だと、11月29日にイギリス・ロンドン中心部のロンドン橋で男が歩行者らを切りつけた事件について、アマーク通信は翌30日に「ISの戦士が実行した」と伝えた。

本当に男がISメンバーだったかについて信憑性は定かではないが、ISは異教徒への攻撃など「利用価値がある」と判断した事件は、自らの犯行として主張することもある。

ところが、中村医師の事件については、本稿の執筆時点(12月9日)まで沈黙を保っており、とくに言及はみられない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

9月企業向けサービス価格、前年比3.0%上昇 前月

ワールド

クルド武装組織PKK、トルコから撤退発表 政治参加

ワールド

ハリケーン「メリッサ」、カリブ海でカテゴリー4に発

ワールド

EU、中国産レアアース依存縮小へ 豪加など調達先拡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 3
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水の支配」の日本で起こっていること
  • 4
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 5
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 6
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下にな…
  • 7
    1700年続く発酵の知恵...秋バテに効く「あの飲み物」…
  • 8
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 9
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 10
    【テイラー・スウィフト】薄着なのに...黒タンクトッ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 10
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中