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トランプ登場で自衛を迫られる欧州──今こそポストNATO時代に備えよ

THE DAY AFTER NATO

2019年12月12日(木)18時00分
ヨシュカ・フィッシャー(元ドイツ外相)

マクロン(左)はトランプの警告を真剣に受け止めた(3日、ロンドン) LUDOVIC MARIN-POOL-REUTERS

<自国第一路線に転じたアメリカの外交政策によって、米欧の安全保障は不確かなものとなっている。ロシアの冒険主義に直面するヨーロッパに図らずもやってきた改革の季節>

ヨーロッパというニワトリ小屋に、最近1匹のキツネが入ってきた。たちまち小屋の中は大騒ぎ。激しいわめき合いと、羽根を広げた威嚇合戦が繰り広げられた。

キツネとは、フランスのマクロン大統領。マクロンは最近、NATOは「脳死状態」だと発言して、加盟国から激しい批判を浴びた。だが、表現の是非はさておき、トランプ米大統領の登場で、アメリカの戦略的優先事項が大きく変わり、ヨーロッパが集団的自衛権に関する従来の姿勢を見直す必要に迫られているのは間違いない。

実際、1989年の冷戦の終焉以降ずっと、NATOはその存在意義を問われてきた。NATOが息を吹き返したのは2014年、ロシアがウクライナ領であるクリミアに侵攻し強引に併合するとともに、ウクライナ東部の分離独立運動をあおって戦争に発展させたときだ。

そこにトランプが登場した。トランプ政権は、アメリカの軍事力に安穏と依存していたヨーロッパ諸国を突き放し、ルールに基づいた国際体制におけるリーダーシップを放棄し、ナショナリスト的で保護主義的で一方的な外交政策を展開した。そしてNATOを「時代遅れ」と評した。

こうしてヨーロッパは、「自分で自分を守る」ことを迫られるようになった。だが、戦後約75年にわたりアメリカの軍事力に依存してきた結果、ヨーロッパは物理的にも心理的にも、現代の厳しい地政学的状況に対処する準備ができていない。EUも、あくまで経済的な統合機関という自覚しかない。従ってヨーロッパが独自の防衛力を付けるためには、これまでの考え方を大きく改める必要がある。

NATOの組織と、米欧の安全保障義務に疑問符が付けられるようになった今、NATOの解体は「果たして」ではなく「いつ」の問題になった。突然、トランプがツイートで離脱を宣言してもおかしくない。そこで大騒ぎするのは愚の骨頂だ。ヨーロッパは、もはやNATOはないと思って今すぐ行動を起こす必要がある。

マクロンはこのことを理解している。また、米軍がヨーロッパから引き揚げた後、ヨーロッパをどのように防衛するかをめぐる域内の対立が、予想以上に深刻なものになることも分かっている。そのような事態を回避するために、ヨーロッパ諸国は今から軍事費を大幅に増やして、軍事力を著しく拡大しなければならない。

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