最新記事

イギリス

英総選挙、保守党圧勝でもEU離脱が難しいこれだけの理由

2019年12月16日(月)11時30分
ジョシュア・キーティング

愛犬を連れてロンドンの投票所に姿を見せたジョンソン(12月12日) DYLAN MARTINEZ-REUTERS

<離脱派が勝ったが、まだ難題は山ほど残っている。ジョンソンはEUとカナダ間の貿易協定CETAをモデルにすると言うが、移行期間の11カ月間で交渉がまとまるのか。イギリスをシンガポールのようにする構想も掲げるが、それもEU側が......>

12月12 日に行われたイギリス総選挙は、ジョンソン首相率いる与党・保守党の圧勝に終わった。ただし、有権者の大半がジョソンの言う「ブレグジットの完了」を望んだ結果とは言い切れない。

ブレグジットの是非を問う2度目の国民投票を主張した主要政党の労働党、自由民主党、スコットランド民族党(SNP)、緑の党、ウェールズ党の得票率の合計はおよそ51%。一方、EU離脱派の保守党とブレグジット党の合計得票率は46%未満だった。

だが小選挙区制のイギリスでは、重要なのは全体の得票率ではない。全650選挙区の勝敗だ。与党圧勝の決め手になったのは、労働党の伝統的な地盤イングランド北中部での勝利だった。国民の意見はどうあれ、ブレグジットの流れはもう止まらない。

1月31日の正式なEU離脱期限を迎えた後は、「癒やしのプロセスを始めよう」と、ジョンソンは呼び掛けた。外為市場では、選挙結果を受けてポンドが急騰した。不確実性を嫌う市場がブレグジットの前進を歓迎している証拠だ。

だが、この先にはまだ難題が山ほど残っている。

実際には、1月31日になっても何かが大きく変わるわけではない。イギリスは11カ月間の「移行期間」に入り、その間はこれまでどおりEUの法規に縛られる(ただし、EU内での発言権は失う)。

その一方でEUとの新しい貿易協定の交渉を進めるが、移行期間終了までに合意できなければ、EUとの通商は他のWTO加盟国と同条件になる。つまり「合意なき離脱」の可能性はまだあるのだ。

ジョンソンらが約束したように、EUとの交渉がスムーズに進むとは考えにくい。ジョンソンは2016年にEUとカナダが合意した包括的経済貿易協定(CETA)をモデルにした「スーパー・カナダ・プラス」方式の協定締結を望んでいる。CETAの下では、EUとカナダの間で取引される商品の98%について関税が撤廃される。

しかし、CETAは交渉がまとまるまで7年かかった。同様の協定を移行期間の11カ月間で結べるだろうか。イギリス・EU間の貿易総額は、カナダ・EU間の4倍近い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

維新、連立視野に自民と政策協議へ まとまれば高市氏

ワールド

ゼレンスキー氏、オデーサの新市長任命 前市長は国籍

ワールド

ミャンマー総選挙、全国一律実施は困難=軍政トップ

ビジネス

ispace、公募新株式の発行価格468円
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 6
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 7
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 10
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中