最新記事

朝鮮半島

「韓国は日本の従属物にさせられる」北朝鮮も民族の未来を憂慮

2019年11月22日(金)16時15分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

北朝鮮はGSOMIA破棄をめぐるアメリカの姿勢に憤慨している Pyeongyang Press Corps/REUTERS

<大国間で翻弄される民族の未来を北朝鮮も憂慮しているのだろう>

北朝鮮国営の朝鮮中央通信は20日、韓国政府による日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄をめぐる米国の姿勢を非難する論評を配信した。

韓国政府が破棄の決定を撤回しなければ、GSOMIAは23日午前0時をもって失効となる。文在寅大統領はGSOMIA破棄について「日本が原因を提供した」と述べ、日本政府による輸出規制強化措置が撤回されない以上、破棄の撤回もないとの立場を維持している。

しかし、日本側はGSOMIAの失効に何ら痛痒を感じておらず、歩み寄りは難しいのが現状だ。米国が、GSOMIA破棄の決定を撤回させるべく、韓国に圧力を加えていることも、日本に「高みの見物」をする余裕を与えている。

大国の間で翻弄

北朝鮮の論評は、米国のこの態度に憤慨しているのだ。論評は「(米国が韓国にGSOMIAの)延長を強要している現実は、自国の軍事的利益のために南朝鮮を日本の経済植民地、従属物にすることもためらわない米国の腹黒い下心をはっきりと示している」と非難した。

このところ文在寅政権を冷たく突き放している北朝鮮が、こうして韓国政府の肩を持つかのような主張を展開する目的は、一義的には米韓同盟の結束を弱めることにある。また、米国や日本への反感が強い文在寅政権の支持勢力を焚きつけ、身動きしにくくする狙いもあるだろう。

だがそれと同時に、大国の間で翻弄される民族の未来に対する憂慮から発せられている部分もあるのではないだろうか。

<参考記事:日本の「軍事大国化」に震える韓国と北朝鮮

実際、同通信は15日付の論評でも、米国が「防衛費分担金」や同盟の行動範囲拡大を巡り、韓国への圧迫を強めていると非難している。

米国は最近、韓国に対し、在韓米軍の駐留経費など防衛費分担金の大幅増額を要求しているほか、「米韓同盟危機管理覚書」を改正し、同盟の対応範囲を現行の朝鮮半島有事から「米国有事の際」に拡大することを主張しているとされる。同覚書が米国の主張に沿って改正されれば、中東やアフリカなどで米国が脅威に直面していると判断された場合、韓国が米国に援軍を送る状況が発生し得る。現状、韓国側はこれらの要求に難色を示している。

論評は、米国の要求が実現すれば「結局、南朝鮮は米国の大陸侵略と世界制覇戦略実現のための前哨基地、兵站基地により転落し、米国が介入する世界のホットスポット問題に巻き込まれて残酷な戦乱に見舞われるようになる」と指摘。

米国の狙いは「南朝鮮に対する軍事的支配を維持、強化する」ことにあるとしながら、「侵略的で屈辱的な隷属同盟は、撤廃されなければならない」と強調している。

<参考記事:「韓国外交はひどい」「黙っていられない」米国から批判続く

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

攻撃受けたイラン核施設で解体作業、活動隠滅の可能性

ワールド

独仏ポーランド首脳がモルドバ訪問、議会選控え親EU

ワールド

米FDA、65歳未満のコロナワクチン接種を高リスク

ビジネス

米フォード、トラック35万5000台リコール 計器
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    「どんな知能してるんだ」「自分の家かよ...」屋内に侵入してきたクマが見せた「目を疑う行動」にネット戦慄
  • 3
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪悪感も中毒も断ち切る「2つの習慣」
  • 4
    【クイズ】1位はアメリカ...稼働中の「原子力発電所…
  • 5
    「ガソリンスタンドに行列」...ウクライナの反撃が「…
  • 6
    「1日1万歩」より効く!? 海外SNSで話題、日本発・新…
  • 7
    イタリアの「オーバーツーリズム」が止まらない...草…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    「美しく、恐ろしい...」アメリカを襲った大型ハリケ…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 7
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 8
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 9
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 10
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中