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四中全会と民主とブロックチェーン

2019年11月15日(金)12時25分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

非常に回りくどいのだが、習近平がわざわざ上海に来て言ったところの「さまざまな民主の形」とブロックチェーンをかなり強引に結びつけるなら、「ブロックチェーン技術には非中央集権的な特性があり、この特性と民主は相性がいい」ということになろうか。

この意味付けに関してシンクタンク「中国問題グローバル研究所」の中国代表研究員である孫啓明教授に聞いてみた。すると、「まったくの個人的な意見ですが」と断った上で、以下のような回答が戻ってきた。

――習近平の民主に関する発言とブロックチェーンは、一見、関係がないという見方は出来ます。しかしマクロ的視点で考えれば、中国はブロックチェーン技術を通して、対外開放のレベルをアップさせようとしており、これは国内的には民主化のレベルとプロセスを速めていくかもしれないという可能性を秘めています。ミクロ的に見れば、ブロックチェーン技術は本質的に分散型のデータ記載をする普遍性を持った技術です。もちろん将来的には一般庶民の日常生活におけるさまざまな要求を記載することもできるし、各種の情報や行為を記録することもできます。おまけに、ブロックチェーンによる記録は非常に透明で改ざんができません。これはまさに、民衆の意見を収集し、現場の要求の真実性を証明するための一種の技術的保障になるわけです。それはある意味、「さまざまな民主の形」につながるのではないでしょうか。

なるほど――。

これでようやく、なぜ習近平がわざわざ上海で庶民に「さまざまな民主の形」などの話をしたかが、少しだけ見えてきた。

たしかにアメリカ大統領選の候補者の一人であるアンドリュー・ヤン氏も<「真の民主主義革命のために」ブロックチェーン投票を公約に>と呼び掛けている。

もっとも、中国の「民主」は西洋的価値観の「民主」ではなく、現在の中華人民共和国憲法にも「人民の民主」が保障されているのだから、一党支配を維持するための「装置」でしかない。だから中国は中央がコントロールできるデジタル人民元を作りたいと思っている。

むしろ、「改ざんできない」とか「履歴が残る」ということは国家の情報収集能力を高めることになり、監視能力を強化することにつながる。ブロックチェーン技術により、ほぼ「絶対的」とも言えるほど高度の監視社会が出来上がるのではないかと、逆に思ってしまうのである。しばらく観察を続けていきたい。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(11月9日出版、毎日新聞出版 )『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

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