最新記事

日韓関係

文在寅が抱える「自爆装置」......GSOMIA破棄が炸裂するタイミング

2019年11月26日(火)16時30分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

日本と韓国はGSOMIA延長の経緯をめぐって発表が食い違っている Lucas Jackson-REUTERS

<政権支持者たちが日本への不満を募らせれば、「今こそGSOMIAを破棄しろ」との声が噴き出すだろう>

23日、名古屋で会談した日韓外相は来月末に中国で開かれる日中韓首脳会議を機に、昨年9月以来となる日韓首脳会談の実現に向け調整することで一致した。

史上最悪と言われる日韓関係を解きほぐす上で、両国首脳のリーダーシップは不可欠であり、これはきわめて重要な機会と言える。

米国の「最後の脅し」

とはいえ、ハッキリ言って「期待」より「不安」が勝るのが、正直なところだ。重要な機会であるだけに、その場で「爆弾」がさく裂しようものなら、文字通り取り返しのつかない事態となる。

そうでなくとも両国は、日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の失効回避を巡り、言い合いをしている。韓国側は、日本が先に輸出管理強化措置の見直しの意向を示したと強調し、日本側は、韓国が輸出管理の問題点を改善する意欲を示し、WTO提訴の手続きを中断する意向を伝えたからと主張する。

またこうした発表の食い違いを巡り、韓国側は「日本がわい曲し、謝罪した」とし、日本側は「そんな事実はない」と否定している。関係改善を目指す国同士のやり取りとは、とても思えない。

現時点で確かなのは、韓国の文在寅政権の方が、よほど旗色が悪いということだ。韓国政府はGSOMIAの失効回避に当たり、「終了通知の効力停止」という表現を用いて、いつでもGSOMIAを終了させることができるとの前提を付けた。反日に傾き、GSOMIA破棄に賛成していた政権支持者たちに、「引いたわけではない」と言い訳する余地を残したわけだ。

しかしこれこそは、文在寅政権にとっての「自爆装置」だ。政権支持者たちが日本への不満を募らせたら当然、「今こそGSOMIAを破棄しろ」との声が噴き出すだろう。そうなっても、GSOMIAの終了にまったく痛痒を感じていない日本側には、何のダメージもない。

一方で韓国側は、支持者に従わねば政権の地盤沈下につながり、GSOMIAの破棄に走れば、文在寅政権を腰砕けにした米国の「最後の脅し」が現実のものとなる。

参考記事:「韓国に致命的な結果もたらす」文在寅を腰砕けにした米国からの警告

参考記事:「韓国外交はひどい」「黙っていられない」米国から批判続く

GSOMIAの失効が回避されてもなお、文在寅政権は危機から抜け出せていないのだ。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

BMW、次期CEOに生産部門トップ 新世代EV開発

ワールド

ハンガリー、米国と新たな金融協力協議開始へ=外務貿

ワールド

ポーランド初の原発建設に国庫補助、EUが承認 36

ビジネス

国内企業物価、11月は前年比2.7%上昇 農林水産
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中