最新記事

中国共産党

超ハイテク監視国家・中国が拡散する悪魔の弾圧ツール

China’s Surveillance State

2019年10月29日(火)17時00分
サラ・クック(フリーダム・ハウス上級アナリスト)、エミリー・ダーク(トロント大学博士課程)

magw191029_China2.jpg

建国70周年の祝賀行事で巨大スクリーンに映し出された習(10月1日) JASON LEE-REUTERS

2006年には薬物乱用者200万人以上の動向と生体認証情報を管理するシステムが導入された。列車の切符をオンラインで買うときに身分証の番号を使えば、即座に公安当局に通知される。すると警察が本人を見つけ、尿検査を受けさせ、その結果をデータベースに登録する。

同時に指紋とDNAのデータも登録される。2017年秋には海南省の警察が麻薬使用歴のある人物全員のDNAサンプルを採取したとされる。

競争原理で技術が進化

これをベースに、各地の警察はさらに独自のデータベースを構築した。必要な技術を提供したのは、もちろん国内の企業だ。例えば宏達集団の開発したシステムは2008年までに、法輪功の信者に関する情報収集に用いられ、「誰に誘われて入信したか」「どこで誰と瞑想したか」などの情報が登録された。信仰心の程度も判定され、これが後にウイグル人を「安全」「普通」「危険」と分類する際の参考になったとされる。

以来、中国のハイテク企業は高度な監視技術を宝の山と考えるようになった。要注意人物の情報をリアルタイムで把握できるシステムを開発すれば、各地の公安当局に高値で売り込めるからだ。

ネット上で確認できただけでも、2015年10月から2019年5月までに7つの省や直轄市の公安当局が、そうしたシステムについて少なくとも13件の入札を実施していた。応札した企業の所在地は広東省や浙江省、北京などさまざまだ。

こうした企業40社のうち、北京市の深醒科技(センシングテク)など少なくとも10社は警官の使う携帯端末も提供していた。マッピングや位置情報の特定機能を提供する企業も13社ある。

浙江省の億点通情報科技が提供するシステムだと、監視対象者の基本情報(氏名、生年月日、性別、住所)に加えて銀行口座やネットのアカウント情報なども収集でき、運用側のニーズに応じて登録情報を追加できる。

また宏達集団や億点通が提供するシステムの一部は、国内移住者や国家公認の宗教団体の聖職者など、一般には監視対象とならない人々もカバーしている。

異なるシステムが異なる目的で、各地で採用されている現状は、多くの地方警察が独自の監視システムを構築していることを示している。どこの警察も要注意集団の動向に目を光らせ、ハイテク監視技術によって社会の安定を維持したいと考えている。

だが、監視対象の優先順位は場所と時期によって異なる。例えば待遇の改善を求める退役軍人が各地で監視対象となったのは2017年以降。矯正措置を受けている者や精神疾患の患者、何らかの請願をした者が監視対象になったのは同年秋の第19回共産党大会を控えた時期からだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

核保有国の軍拡で世界は新たな脅威の時代に、国際平和

ワールド

米政権、スペースXとの契約見直し トランプ・マスク

ワールド

インド機墜落事故、米当局が現地調査 遺体身元確認作

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、円安で買い優勢 前週末の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中