最新記事

インド

スマートシティーのスマートでないインドの現実

The Dirty Work Behind Smart Cities

2019年10月25日(金)12時00分
アンヘル・マルティネス・カンテラ

地元民はまた、多くのごみ箱が壊れていると主張する。急斜面の地形と雨量の多さに対応した排水を考慮しない設計のせいで、地下のコンクリート構造物が陥没しているというのだ。その一方で、都市ごみは未処理のままサッダーの不法投棄場に積み上げられている。

「汚染のせいで肌に問題が出て、貯金をはたいて治療している。飼っている乳牛の1頭は病気になり、1頭しかいなかった雄牛が死んだので農作業もできない。どうやって生きていけばいいのか」と、酪農場で働くアヌラダ(41)は嘆く。収穫物は売れず、投棄場の上流の水でかんがいする穀物も心配だという。

固形廃棄物管理規則違反だとの訴えを受けて、環境問題を扱う国家グリーン審判所は今年1月、自治体と州の汚染対策当局に問題の調査を指示した。地元のニュースはこの計画を「地下ごみ箱詐欺」と呼び、地元の役人が高価な設備の大量購入に絡んで違法な仲介料を得た可能性があると報じた。

スマートごみ箱が設置された今も、投棄場ではごみの分別が手作業で行われている。「片付け、清掃、ごみ処理。私の家族が何代も前からやってきた家業に、行政は月6000㍓(約84㌦)を支払う」と、他の80人のラグピッカーと共に強制的に家から追い出されたスニ・アショク(27)は言う。ラグピッカーの雇用契約には、休日や安全のための装備、住みやすい住宅を提供すると明記されているが、どれもアショクには縁がない。

ダラムサラ自治体当局は16年6月、中心部のチャランハドにあるスラムから約1500人の移住労働者を立ち退かせた。「警棒を持った警官が家財を破壊し、私たちを暴行で追い出した」と、スミタ(46)は言う。

人々は30年以上前からスラムに住んでいたが、彼らの小屋は屋外排泄など「公衆衛生上の危険」に対する懸念を理由に高等裁判所の命令で取り壊された。だが活動家は、屋外排泄はインドでは普遍的な問題であり、何の対応策も立てずに1000人以上を立ち退かせる理由にはならないと主張する。

優先課題は他にある?

後になって、クリケット場に隣接する絶好のロケーションにあるこのエリアが、スマートシティー計画の一環で植物園の予定地に選定されていることが判明した。クリケット場の近くには、貧しい人々向けに約150棟のアパートが総額150万㌦で建設されている。しかし、チャランハドからの立ち退き家族には提供されていない。

「簡易宿泊施設や商店なども小川にごみを投棄している。屋外排泄が問題だというなら、トイレを提供してくれてもいいはずだ」と、スラムの元住人で靴磨きを生業とするラジェシュ・クマル(45)は言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中