最新記事

軍事

数千億円かけたサウジ防空システムに欠陥 わずか数万円のドローン攻撃に無防備

2019年9月20日(金)15時07分

安価な攻撃手段

アラムコの操業に詳しい関係者は、今回攻撃を受けたアブカイクの施設は、ドローンに対する防衛態勢が不完全だったと証言した。当局は、レーダーが適切にドローンを捉えたかどうか調査を進めている。

サウジと取引がある西側の防衛企業幹部は、1年前までアブカイクの防衛用にパトリオットが配備されていたと話す。

14日に適切な迎撃ができなかった理由について、記者団から聞かれた有志連合の報道官は「230発を超える弾道ミサイルが有志連合によって迎撃された。われわれはあらゆる脅威に対応しており、サウジの安全保障を確保する防衛能力がある」とだけ答えた。

サウジ政府の報道担当部門は、コメント要請に回答しなかった。

先のサウジ安全保障関係者と2人の業界関係者によると、同国政府は数年前からドローンの脅威を認識し、コンサルタントや関連業者と解決策を話し合っていたものの、新たな具体的措置を講じてこなかった。

米国防総合大学のデーブ・デロッシュ氏は「従来のほとんどの防空レーダーは、高高度からの脅威に向けて設計されている。巡航ミサイルとドローンは地表すれすれを飛んで来るが、地平線が丸い関係でレーダーに映らない。また、ドローンは小さ過ぎて、大半のレーダーに熱源として探知されない」と解説する。

たかだか数百ドル程度のドローンに対し、1発約300万ドルの高額なパトリオットミサイルで撃ち落とすのは、あまりにも割に合わない面がある。

米国の防空専門企業・ディドローンのヨルク・ランプレヒト最高経営責任者(CEO)兼共同創業者は、より有効なドローン迎撃策として、こちらからもドローンのスウォーム(群れ)を向かわせることを提案する。

また、ジャミング(電波妨害)などの技術によって、ドローンを制御不能にできるとしている。

ただ、頻繁にジャミングを行えば、産業活動が損なわれたり、周辺住民に健康被害を与えることにつながる恐れもある。

いずれにしても武装されたドローンは入手しやすくなる一方で、重要なインフラへの脅威は過剰なほどに高まりつつある、と専門家はみている。

サウジの政策担当者がずっと前から恐れているのは、中部と東部に淡水を供給している同国東部・ジュバイルの淡水化施設が攻撃される事態だ。

この施設が破壊されれば、数百万人が水を利用できなくなり、修理に長い期間を要する可能性があるとみられている。

[リヤド/ドバイ ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

パキスタン国際航空、地元企業連合が落札 来年4月か

ビジネス

中国、外資優遇の対象拡大 先進製造業やハイテクなど

ワールド

リビア軍参謀総長ら搭乗機、墜落前に緊急着陸要請 8

ビジネス

台湾中銀、取引序盤の米ドル売り制限をさらに緩和=ト
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中