最新記事

ラオス

道もクルマも家も飲み込まれ... 台風被害ラオス、救援訴えた女性は政府批判で逮捕

2019年9月19日(木)20時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

洪水で住宅の自宅の塀まで浸水したラオスのようす RFA Laotian ວິທຍຸເອເຊັຽເສຣີ / YouTube

<台風被害に苦しむのは日本だけではない。しかも救援を訴えることで反体制のレッテルを貼られる国さえある>

8月末にラオス南部を襲った台風とそれに続く集中豪雨は広範囲で大規模な被害をもたらし、これまでに約60万人が被災し、14人の死亡が確認されている。ところがこうした被害の実態はラオス国内ではあまり伝えられていないのが実情という。

そんななか、政府や地方自治体による救援活動が遅々として進まない実情をインターネットで訴えた地元の女性が政府を批判した容疑で警察に逮捕され、弁護士などとの面会も拒否されていることがわかった。

米政府系放送局「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」などが伝えたところによるとラオス南部チャンパサック県に住む女性、フアイファン・サヤブリさん(30)がfacebookを通じて同県周辺で洪水被害に遭った多くの住民に対する救援活動が不十分であることへの不満を訴え、早急な対策を求めた。

これに対しチャンパサック県警察は9月12日、サヤブリさんを「中央・地方政府やラオス人民党を批判、中傷した」として刑法117条違反容疑で逮捕した。その後彼女は警察施設に身柄を拘留されているが、弁護士や家族との面会も一切認めない措置が続いているという。

サヤブリさんの家族は地元ポーントーン郡警察に対して即時釈放を要請しているが、同警察は上級のチャンパサック県警察の管轄であり権限がないとしている。

「政府はもっと救援活動ができるはず」

サヤブリさんは、facebookに投稿した動画で「私の両親や家族は周囲を洪水の水に囲まれている。なぜヘリコプターが救出に来ないのか。救援のための政府予算が限られていることは理解できるが、政府は多くの被災者にもっと救援活動ができるはずだ」などと救援活動への不満を表明し、さらなる救援を求めた。

そのうえで「政府職員がいくら給与ももらっているか知っている。彼らがいい車や家を購入できるのはなぜかも知っている。洪水被害に遭遇していない人たちは被災者の痛みを分かっていない」と話した。こうした発言が政府や政府職員を批判したとして逮捕に繋がったみられている。

9月5日にアップされたこのfacebookの動画は17分に及ぶもので、9月19日までに約16万回再生、視聴されている。サヤブリさんのfacebookアカウントは依然として残っており、逮捕の原因となった問題の動画も視聴可能となっている。


問題となったサヤブリさんの動画 Xayabouly Houayheuang / facebook


190924cover-thum.jpg※9月24日号(9月18日発売)は、「日本と韓国:悪いのはどちらか」特集。終わりなき争いを続ける日本と韓国――。コロンビア大学のキャロル・グラック教授(歴史学)が過去を政治の道具にする「記憶の政治」の愚を論じ、日本で生まれ育った元「朝鮮」籍の映画監督、ヤン ヨンヒは「私にとって韓国は長年『最も遠い国』だった」と題するルポを寄稿。泥沼の関係に陥った本当の原因とその「出口」を考える特集です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は反落で寄り付く、週明けの米株安の流れ引き

ワールド

米朝首脳会談の開催提案、韓国大統領がトランプ氏との

ビジネス

トランプ氏、ABCとNBCの放送免許剥奪示唆 FC

ワールド

大韓航空、ボーイング機103機発注 米韓首脳会談に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 2
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」の正体...医師が回答した「人獣共通感染症」とは
  • 3
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密着させ...」 女性客が投稿した写真に批判殺到
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 7
    アメリカの農地に「中国のソーラーパネルは要らない…
  • 8
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 9
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中