最新記事

イギリス

ブレグジット混乱:両陣営の「正義」の穴と、最も可能性の高いシナリオ

Brexit: A Battle Over Democracy

2019年9月10日(火)11時00分
ジョシュア・キーティング

強硬派のジョンソンは国民投票が示した「民意」を盾に合意なき離脱も辞さない構えだが DANNY LAWSON-PA WIRE-POOL-REUTERS

<ジョンソン首相の議会閉会決定に野党が抵抗。共に民主主義の擁護者を自称する離脱派と残留派だが、悪いのはどちらか。そして行き詰まりから抜け出す方法は>

ブレグジット(イギリスのEU離脱)が予定される10月31日を前に、イギリスがまたも大混乱に陥った。

強硬派のボリス・ジョンソン英首相は、必要なら合意なしでも期限どおりに離脱すると主張している。10月末までにEUと新たな貿易協定を交渉したいとは言うが、実現の見込みは薄くなる一方だ。

そんななか、野党側が合意なき離脱を防ぐ行動に出た。まず、下院で議事進行の主導権を政府から議員側に移す動議が与党議員の造反もあり成立。そして離脱条件について10月19日までに議会の承認を得られない場合、期限の3カ月延長をEUに要請するよう政府に義務付ける法案を提出したのだ。

与党・保守党は所属議員1人が野党に移ったため与党勢力としても過半数を失っている。野党側の法案は上下院で可決され、10月末までの総選挙実施という提案で脅しをかけたジョンソンの動議は否決された。

対立する両陣営はいずれも、イギリスにとって最良の経済的利益を実現するためだけでなく、この国の民主主義の未来のために戦っているのは自分たちだと主張する。しかし、両者の論拠は多くの点でかなり疑わしい。

ジョンソンは8月28日、議会を9月12日から10月14 日まで閉会すると発表した。議会日程を縮小して、野党勢力が合意なき離脱に待ったをかけられないようにする狙いだった。

野党・労働党のジェレミー・コービン党首は「選挙に勝利しておらず、過半数も持たない首相が、自らの破滅的な合意なき離脱計画は議会で支持されないと分かっているから閉会を命じるのなら、それは民主主義への攻撃であり、私たちは抵抗する」と批判。スコットランド行政府のニコラ・スタージョン首相はジョンソンを「安っぽい独裁者」と非難した。

これはいささか言い過ぎだ。イギリスでは通例、秋の党大会シーズンに議会が約3週間の休会に入る。従って、ジョンソンの閉会決定で失われる日数は事実上、数日程度にすぎない。

混乱劇が問い掛けるもの

それでも、本人が否定しようと、決定が純粋に政治的理由に基づくことは明らかだ。少なくともその点で、ジョンソンはイギリスの不文憲法の根底にある規範を逸脱しようとしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

東ティモール、ASEAN加盟 11カ国目

ワールド

米、ロシアへの追加制裁準備 欧州にも圧力強化望む=

ワールド

「私のこともよく認識」と高市首相、トランプ大統領と

ワールド

米中閣僚級協議、初日終了 米財務省報道官「非常に建
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 3
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任務戦闘艦を進水 
  • 4
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 5
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 8
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 9
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 6
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 7
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中