最新記事

北極圏

トランプはなぜ極寒のグリーンランドが欲しいのか

There Won't Be a Mar-a-Nuuk, But Owning Greenland Isn't a Silly Idea

2019年8月19日(月)15時19分
ニコール・ストーン・グッドカインド

ゴルフ場には向かなそうだが(写真は、グリーンランド北部にある米軍のチュール空軍基地の遠景)  Ritzau Scanpix/Linda Kastrup/REUTERS

<北極海を臨む戦略的要衝として以前から注目。事実、グリーンランドに地歩を築こうとしたのはトランプが初めてではないし、アメリカだけでもない>

報道によれば、ドナルド・トランプ米大統領はデンマークの自治領で世界最大の島であるグリーンランドを購入する案を検討していたという。

グリーンランドの戦略的な立地や手つかずの天然資源に関心をいだいたらしい。ニューヨーク・タイムズは8月15日、トランプが何人もの顧問たちに複数回にわたり、グリーンランド購入について意見を求めたと伝えた。

真偽のほどはともかく、構想自体は荒唐無稽とは言い切れない。グリーンランド北部のチューレ空軍基地には米軍が駐留しているし、トランプ政権は以前から北極圏に強い関心を抱いてきた。背景にあるのは北極圏をめぐるロシアと中国の緊張の高まりであり、地球温暖化による新たな北極海航路の可能性だ。

チューレ基地に設置したレーダーは周囲240度をカバーすることができ、大陸間弾道ミサイルや人工衛星を追尾するのに役立つ。中国もグリーンランドの戦略的利点を認識している。2016年には、グリーンランドにある古い基地を買収しようとしてデンマークに阻止された。デンマークの当局者はメディアに対し、阻止はアメリカの意を受けてのことだったと語っている。昨年も中国企業がチューレ基地近くに空港を建設しようとして失敗している。

デンマーク側は相手にしない姿勢

今年5月、マイク・ポンペオ米国務長官はこの地域を「世界の力と競争がぶつかり合う舞台」と呼んだ。この地を戦略的要衝だとして注目しているのはトランプだけではないらしい。1946年には、当時のトルーマン大統領が1億ドルでの購入を提案したこともある。

だが8月16日、世界各国の指導者からはこの考えに否定的な反応が出た。グリーンランドの外相はツイッターで「グリーンランドは鉱物や澄み切った水や氷、魚にシーフード、再生可能エネルギーなど価値ある資源に富んでいる。また、冒険ツーリズムの新たなフロンティアでもある。われわれはビジネスには前向きだが、売却するつもりはない」と述べた。

グリーンランドの予算の3分の2を拠出し、軍事的保護をしているデンマーク政府も、売却などあり得ないという反応だ。

「まったくの季節外れの、エイプリルフールの冗談に違いない。」と、デンマークのアナス・フォー・ラスムセン元首相はツイッターで述べた。

政府与党に閣外協力している右派・デンマーク国民党の広報担当者は「もし本当にこんなことを考えているとしたら、彼(トランプ)がおかしくなった決定的証拠だ」とテレビ局の取材に述べた。「デンマークがアメリカに5万人の国民を金で売るという考え自体、完全にばかげている」

(翻訳:村井裕美)

20190827issue_cover200.jpg
※8月27日号(8月20日発売)は、「香港の出口」特集。終わりの見えないデモと警察の「暴力」――「中国軍介入」以外の結末はないのか。香港版天安門事件となる可能性から、武力鎮圧となったらその後に起こること、習近平直轄・武装警察部隊の正体まで。また、デモ隊は暴徒なのか英雄なのかを、デモ現場のルポから描きます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科、社債が約50%急落 償還延期要請

ワールド

米大統領が台湾問題で中国挑発しないよう助言との事実

ワールド

香港高層住宅群で大規模火災、55人死亡・279人不

ビジネス

再送-第一生命HD、30年度の利益目標水準引き上げ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中