最新記事

カシミール紛争

インドのカシミール「併合」は、民族浄化や核戦争にもつながりかねない暴挙

China and Pakistan Warn India Over 'Unacceptable' Border Moves

2019年8月7日(水)21時00分
トム・オコナー

インドに抗議し、カシミール住民との連帯を叫ぶパキスタン人(8月6日) Mohsin Raza-REUTERS

<インド、パキスタン、中国の3カ国が領有権を争うカシミール地方で、インドが自国の統治地域を勝手に「併合」。紛争再燃のリスクが高まっている。血みどろの歴史から浮かび上がる戦慄のシナリオ>

インドのナレンドラ・モディ首相は8月6日、中国、パキスタンと国境を接するジャンムー・カシミール州の自治権を剥奪した。ジャンムー・カシミール州は、インドとパキスタンが分割統治するカシミール地方のインド側。インドはアミット・シャー内務大臣がジャンムー・カシミール州ともう1つのラダック地方を連邦政府が直接統治する法案を提出し、インド議会で6日に成立した。

同時にインド政府はインド軍兵士を追加配備して同州を封鎖。電話やインターネットも遮断し、物理的にも支配下に置いた。

70年前から認めてきた自治権を突然、廃止した今回の措置を、インド政府は「歴史的大失態の是正」と自画自賛するが、中国とパキスタンは反発しており、世界で最も危険な紛争地域とされるカシミールが再び戦火に包まれる可能性が高まった。

中国外務省の華春瑩報道官は記者会見で、インドが領有権を主張し、中国が実効支配するカシミール地方のアクサイチン地域(インド名ラダックの一部)について、中国は「インドが中印国境に接する中国の領土をインドの行政区域に含めることに反対する」と述べた。

「インドは国内法を一方的に変更することにより、中国の領土主権を揺るがし続けている」と彼女は付け加えた。「このようなインドの行為は受け入れられず、実効性はない。中国はインドに対し、国境問題に関する慎重な発言と行動、双方の間で締結された合意の厳守、国境問題をさらに複雑にする可能性のある動きを避けることを求める」

終わりなき国境紛争

中国とインドの間には別の国境紛争もある。2017年の夏、ブータンと中国が領有権を争うドクラム高原(中国名ドンラン)でインドと中国は衝突寸前の危機に陥った。

この地域は、インドのシッキム州、中国のチベット地域、ブータンのハ渓谷と、3つの国に隣接している。インド政府は、ヒマラヤの小王国であるブータンを無視して勝手に高速道路の建設を開始した中国を非難。インド軍と中国軍がにらみあい、小競り合いを繰り返した。

このとき両国は紛争の拡大をなんとか阻止したが、その後も一方的な領有権の主張が浮上するたびに、問題が再燃する。中国とインドの間には国境をめぐる長い対立の歴史があり、1960年代には激しい戦闘も起きている。

しかし、インドが抱える最も燃えやすい紛争相手はパキスタンだ。1947年にイギリスから分離独立した当初からパキスタンはインドと国境をめぐって対立し、すぐに第1次印パ戦争が勃発した。1965年の第2次印パ戦争と1999年のカールギル紛争は、印パともにカシミールの領有権を主張したことから生じた紛争で、1971年の第3次印パ戦争は、パキスタンから独立しようとした東パキスタン(現在のバングラデシュ)をインドが支援し、全面戦争となった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 5
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 8
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 9
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 10
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中