最新記事

人権問題

アメリカが拷問と、いまだに決別できない深刻な理由

After Torture

2019年8月2日(金)16時45分
ジェフ・スタイン(ジャーナリスト)

torture190101c.jpg

オバマ前大統領は政権発足後すぐに拷問禁止を打ち出した WIN MCNAMEE/GETTY IMAGES


拷問の時代は、ついに終わりを迎えたかに思えた。

それから10年近く。HIG当局者が本誌に語ったところによると、現場の尋問担当者たちは、手荒な拷問に代わる尋問手法に関して意見の一致を見ていないという。

EITに代わり新たな尋問の指針とされた「陸軍情報尋問フィールドマニュアル(AFM)」も依然として強圧的な手法に頼っていると、関係者は指摘する。シャルフや、やはり第二次大戦時にアメリカ軍で日本兵の捕虜の尋問に当たったシャーウッド・モランは、もっと物騒でない尋問手法により大きな成果を上げていたのだが......。

HIGの当局者たちによると、陸軍とCIAは、拷問を禁止した法律を無視したり、骨抜きにしたりしようとしている。脅しや心理操作や強迫が逆効果だということはかなり前から明らかになっているのに、AFMはその種の手法にいまだにお墨付きを与えているとのことだ。

「AFMが推奨している手法に期待されているほどの効果がないとの調査結果は隠された」と、HIGの調査委員会で委員長を務めたこともあるマーク・ファロン元海軍犯罪捜査局捜査官は本誌に語っている。「FBIは調査結果の全容を公開していない」(この件についてFBIはコメントを拒否)

陸軍の一部に、尋問改革に抵抗する勢力があるという話も聞こえてくる。

陸軍内の情報機関は「とても子供じみた態度を取った」と、ある科学者は本誌に語る(国防総省関係者との私的な会話を話題にしていることを理由に匿名を希望)。「HIGから意見を聞かれてもいないのだから、指示に従う必要はない」と陸軍は考えていたのだ。

陸軍のマリア・ンジョク広報官は、この指摘を否定する。「陸軍は引き続きHIGと協力していく」と、本誌に宛てたコメントで述べている。

改革は単なる世論対策

これまで、軍とCIAが尋問改革を全く行ってこなかったわけではない。陸軍は06年、ジョージ・W・ブッシュ政権のドナルド・ラムズフェルド国防長官の文書により承認されていた強硬な尋問手法のいくつかを放棄した。

しかし、それまでの尋問手法が科学的に見て有効でないと判断したわけではないと、元CIA諜報員で心理学者のチャールズ・モーガンは言う。「世論の風当たりを感じて方針を修正しただけにすぎない」

当時は、キューバのグアンタナモ米海軍基地やイラクのアブグレイブ刑務所、そのほかのCIAのブラックサイトで収容者への拷問や虐待が横行していることがメディアで報じられて衝撃が広がり、批判が高まっていた時期だった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、予想下回るGDPが圧迫

ビジネス

再送-〔ロイターネクスト〕米第1四半期GDPは上方

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円以外で下落 第1四半期は低
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中