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アボリジニの聖地「登らないで」の声を無視、禁止前に駆け込み客が殺到

2019年7月17日(水)19時00分
松丸さとみ

ウルル(エアーズロック)に多くの人が押し寄せている  Guardian News-YouTube

<オーストラリアの世界最大規模の一枚岩「ウルル」(エアーズロック)が、今年10月26日から登山が禁止されるため、今のうちに登っておこうという「駆け込み客」が殺到し問題となっている......>

インスタ映え狙い、観光客が殺到

「ウルル」はオーストラリア中央部に位置する、世界最大規模の一枚岩だ。「エアーズロック」という名の方がピンとくるという人もいるかもしれない。標高863メートル(地表からの高さは348メートル)、外周9.4キロのウルルと、その一帯の地域ウルル・カタ・ジュタ国立公園は世界遺産で、自然遺産と文化遺産の両方に登録されている。文化遺産は、この地域を管理しているアボリジニであるアナング族の文化や信仰も対象としたものだ。アナング族の人たちにとって、ウルルは聖なる場所だ。

iStock-508450274.jpg

simonbradfield-iStock

そんなウルルに今、大変なことが起きている。今年10月26日から登山が禁止されるため、今のうちに登っておこうという「駆け込み客」が殺到しているのだ。米ワシントン・ポスト紙は、ウルルにはインスタ映えを狙ってたくさんの人が押し寄せ、まるで今年5月に話題になった、人で渋滞を起こしたエベレスト山のようだ、と伝えている。

ウルルがある地元ラジオ局ABCアリス・スプリングスのアナウンサー、ローハン・バーウィックは7月10日、「マジで頭おかしい」とのコメント付きで、2日前のものというウルル登山客の写真をツイッターに投稿した。さらに、「登山客は(混雑で)肩と肩が触れ合うくらいだったらしい。非常に危険」ともツイートした。


ウルルの中で用を足す人まで......

ワシントン・ポストによると、2017年には1日の登山者数は140人程度だったが、現在は500人ほどに膨れ上がっている。10月に向けてさらに増える見込みだ。ウルルの混雑は周辺のキャンプ場にも影響しており、現地の様子を見た人は、「キャラバンに次ぐキャラバンで、まるでイモムシの行列みたいだった」と同紙に語った。

豪公共放送のABCは、近隣のキャンプ場が定員を超えてしまっているため、道路脇で違法にキャンプする人が出ていると伝えている。道路脇でのキャンプを悪いことと捉えていない人が多いようだが、実際は保護区域でのキャンプとなり違法だという。適切な設備を使わないうえ、ごみが不適切なところに捨てられるなどの問題も起きている。ウルルから100キロ離れたキャンプ場でも、利用客は前年比20%増となっており、使用済みトイレットペーパーや汚物などを道路脇に捨てていく人がいるという。

また、トイレはウルルのふもとに1つあるだけだが、排水管が詰まっていたという話もある。英ガーディアン紙によると、一旦登り始めると、ウルルの中にはトイレがない。そのせいで、岩の中で用を足してしまう人もいる。

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