最新記事

極右

ドイツにネオナチ・テロの嵐が来る

Germany Has a Neo-Nazi Terrorism Epidemic

2019年7月11日(木)13時45分
ピーター・クラス(ライター、在ベルリン)

2017年にライプチヒで開かれた反ネオ・ナチ集会に抗議して集まった極右政党の支持者たち Fabrizio Bensch-REUTERS

<移民に寛容な知事の暗殺をはじめ極右の活動が先鋭化――長年にわたって不穏な動きを放置したツケが回ってきた>

6月2日、ドイツの政治家ワルター・リュブケが自宅前で頭を撃たれて死亡したとき、有識者たちはすぐに右翼の過激派の仕業だろうと指摘した。警察は犯人について先入観を持たないよう呼び掛けたが、その訴えも本気ではないように聞こえた。犯人は被害者と親しい人物だという説もすぐに消えた。

事件について各方面の足並みのそろった反応は、見事なほどだった。だが同時に、これは国家的な怠慢の結果とも言えた。

リュブケは中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)所属で、09年からドイツ中部ヘッセン州カッセル県の知事を務めていた。新聞の追悼記事は、いかにリュブケが地元で幅広い人気を得ていたかを伝えている。

しかしドイツが移民・難民危機に直面していた15年、彼は右翼の標的になった。

この年に県内のローフェルデンで開かれた集会で、リュブケは難民キャンプの建設計画を説き、ドイツは慈善などのキリスト教の価値観を重視する国だと反対派を一蹴。「その価値観を受け入れられない者は、いつ国を出て行ってもらっても構わない」と語った。

この発言が右翼の怒りを買い、リュブケの元には暗殺予告など350通を超えるメールが殺到した。リュブケは警察の保護下に置かれたが、右翼の過激派は執拗に彼を攻撃し続けた。

トルコ系ドイツ人の保守系作家アキフ・ピリンチは、ローフェルデンの集会の数日後に極右の集会で演説。リュブケが反対派に国を去るよう促したのは、ドイツにはとっくの昔に強制収容所がなくなったからだと発言。リュブケの望む解決法は、政敵の集団処刑だと暗に指摘した。

これでリュブケは極右に完全に嫌われた。かつてCDU内の右派議員だったエリカ・シュタインバッハは、問題となったリュブケの演説動画をSNSで12万人のフォロワーに向け、今年2月を含め3度にわたり流した。今年に入り、右翼のサイトもリュブケ批判を強めていた。

右翼軽視の長過ぎた歴史

だからリュブケ殺害の容疑者シュテファン・エルンストが過去に人種差別的な暴力を働き、極右組織とつながりがあったと分かっても、誰も驚かなかった。

今回の暗殺事件によって、ドイツでは右翼によるテロの増加を非難する声が高まっている。ホルスト・ゼーホーファー内相をはじめとする保守派指導者も、極右を抑え付けることが急務だと述べ、右翼テロリストの取り締まりに多くの人員と資金を投じると約束した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科の社債急落、政府が債務再編検討を指示と報道

ワールド

ウクライナ和平近いとの判断は時期尚早=ロシア大統領

ワールド

香港北部の高層複合アパートで火災、4人死亡 建物内

ビジネス

ドル建て業務展開のユーロ圏銀行、バッファー積み増し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中