最新記事

極右

ドイツにネオナチ・テロの嵐が来る

Germany Has a Neo-Nazi Terrorism Epidemic

2019年7月11日(木)13時45分
ピーター・クラス(ライター、在ベルリン)

だが、ドイツは右翼によるテロを長年にわたって見過ごしてきたという厳しい指摘もある。マインツ大学のタンイェフ・シュルツ教授(ジャーナリズム論)は、ドイツ人はテロというと、一般的に左派と関連付ける傾向があると指摘する。

ドイツ赤軍による一連の政治的暗殺は、今も多くのドイツ人の脳裏に強く残っている。一方で、80年にミュンヘンのビール祭で起きた爆弾テロのようなネオファシスト的なテロは、ほぼ忘れ去られている。

シュルツによると、こうした右翼テロ軽視の姿勢は、極右組織の国家社会主義地下運動(NSU)が00年以降に10人を殺害した事件を、当局がテロ組織の犯行だと気付くのに時間がかかった理由の1つだ。

当局はこの事件の捜査対象を、NSUの中核メンバー3人に絞っていた。彼らが他の右翼活動家からかなりの支援を得ていたことを示す強力な証拠があり、その支援の一部は政府内部から寄せられていた痕跡があったにもかかわらずだ。

それゆえ、いくらゼーホーファーが右翼テロとの戦いに資金や人材をもっと投入すると約束しても、どうせ実行しないだろうとの疑念が広がった。その印象は、警察内に右翼シンパのネットワークが存在することが発覚したことによって、さらに強まっている。

昨年12月、フランクフルト警察職員らがナチスのシンボルを常用するグループチャットに参加したとして摘発された。今年6月25日には、その参加者の1人である警察官が家宅捜索を受け、NSUの被害者の弁護士の1人に人種差別的な内容のファクスを送った嫌疑をかけられた。弁護士の娘を惨殺するという脅しのメッセージもあったという。発信者名は「NSU2.0」だった。

次いで6月28日、警察の内部情報を利用して「ノルトクロイツ(北の十字)」と称する組織が、リベラル派と左派系の政治家2万5000人近くの「殺害リスト」を作っていたと報じられた。この組織は武器や遺体収納袋、消毒効果を持つ消石灰を備蓄していたともいう。

情報機関や政府も加担?

地方に代わって連邦当局が介入するという期待も乏しい。何しろ、内務省所属の情報機関である連邦憲法擁護庁が右翼に加担していると非難されている。

同庁はNSUの捜査中に情報提供者からの資料を破棄したことが知られている。さらに18年8月の東部ケムニッツ騒乱事件について、当時のハンス・ゲオルク・マーセン長官は右翼の暴行を伝える映像を作りものだと、根拠もないままに非難した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル急伸し148円台後半、4月以来の

ビジネス

米金利変更急がず、関税の影響は限定的な可能性=ボス

ワールド

中印ブラジル「ロシアと取引継続なら大打撃」、NAT

ワールド

トランプ氏「ウクライナはモスクワ攻撃すべきでない」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中