最新記事

米大統領選

米中通商交渉が泥沼化? トランプの大統領再選にも暗雲

2019年5月14日(火)12時34分

5月12日、トランプ米大統領は再選を目指す来年の選挙に向けて、2016年当時のような中国への強硬姿勢を堅持する公算が大きい。写真は8日、フロリダ州パナマシティーで撮影(2019年 ロイター/Kevin Lamarque)

トランプ米大統領は再選を目指す来年の選挙に向けて、2016年当時のような中国への強硬姿勢を堅持する公算が大きい。ただし少なくとも一部の重要州では、前回ほど熱狂的な支持は得られないかもしれない。

米中貿易協議は非常に困難な局面に入った。中国がそれまでに合意していたいくつかの事項を土壇場で撤回し、トランプ政権は幅広い中国の輸入製品への追加関税率を引き上げに動いただけでなく、さらなる制裁措置も講じようとしている。

そうした貿易戦争はしばらく続く可能性があり、これがトランプ氏の再選戦略に直接悪影響を及ぼしつつある。なぜなら農業の比重が大きいアイオワ州など、16年の選挙でトランプ氏の勝利に貢献した地域が貿易戦争の深刻な被害を受けているからだ。

かつてトランプ政権高官だったある人物は「大統領選が本格化するまでにトランプ氏が米中貿易摩擦を解決できず、大豆生産地帯の痛みが残るようなら、同氏にとってリアルな問題になる」と警告する。

大豆は米国で最も重要な輸出農産物だが、昨年は中国向けが16年ぶりの低水準になった。

ムニューシン財務長官などが足元で米中合意が近いと示唆していたにもかかわらず、交渉がまとまらなかったことで、トランプ氏が自慢する交渉能力にも疑問符が付いている。

トランプ氏自身も最近、近く中国の習近平国家主席がワシントンを訪れて恐らく合意を祝うことになるとの見方を示していた。

半面、今回の「決裂」でトランプ氏が自らの目的にそぐわない形の合意には必ず背を向けることも浮き彫りになった。トランプ氏は2月の北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との会談でも、金氏が部分的な非核化の見返りに全面的な経済制裁解除を要求すると席を蹴ってしまった。

トランプ氏の複数の側近は、特に米中の外交については強さを演出するのが効果的だと自信を持っている。ホワイトハウスの報道官だったショーン・スパイサー氏は「原則的に見てトランプ氏が中国に強い態度を示すことが自らの利益になると思う」と述べた。

米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表は中国に知的財産保護、技術移転強要や為替操作の取りやめなどを要求しており、トランプ氏もライトハイザー氏の強硬路線を支持している。

そうした姿勢は、与党だけでなく野党からの支持もある。民主党のシューマー上院院内総務は先週、トランプ氏に対して中国には厳しい態度で臨み、決して引き下がらないよう促すつぶやきを投稿した。

最近までトランプ氏の通商・経済政策アドバイザーを務めていたクリート・ウィレムズ氏は、貿易問題では与野党が「かなり団結している」と指摘した。

ただ民主党の大統領候補は、中国との通商関係を大きく修正する必要を認めながらも、トランプ氏の交渉のまずさを追及するのはほぼ間違いない。

民主党の大統領候補指名を争うエリザベス・ウォーレン上院議員はオハイオ州の集会で「トランプ氏は貿易協議の合意をどうやってまとめるべきか分かっていない。ツイートをやり取りするだけでは何の役にも立たない」と批判した。

トランプ政権と選対陣営も、既に関税の痛みが農家を襲っていることを承知し、そうした悪影響を政策支援や農家の愛国心に訴えることで何とか和らげようとしている。陣営幹部は「農家は愛国的で、誰かがいずれ中国に責任を取らせなければならないと理解している」と説明した。

それでも最終的に鍵を握るのは米国経済の状況になるだろう。経済が堅調のままなら、トランプ氏は関税の打撃を受けた州でも有権者からの共感を得られる。しかし経済が悪化すると、トランプ氏の称賛は影をひそめ、アイオワやミシガン、ミネソタ、ペンシルベニア、ウィスコンシンといった選挙で大きな意味を持つ州で、民主党がトランプ氏に勝利する確率が高まる。

当のトランプ氏は、米中合意の期待が遠のくとともに、再び関税がもたらすメリットを強調し始めた。10日(訂正)には「関税はわが国を弱体化させるのではなく、非常に強くしてくれる。経過を見守ってくれ!」とつぶやいている。

Jeff Mason

[ワシントン 12日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 大森元貴「言葉の力」
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月15日号(7月8日発売)は「大森元貴『言葉の力』」特集。[ロングインタビュー]時代を映すアーティスト・大森元貴/[特別寄稿]羽生結弦がつづる「私はこの歌に救われた」


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中