最新記事

北朝鮮

金正男暗殺実行犯の女性被告1人を釈放・帰国 マレーシア、マハティール流の高度な政治判断か

2019年3月11日(月)19時36分
大塚智彦(PanAsiaNews)

クアラルンプールの高等裁判所に出廷したシティ・アイシャ被告 Lai Seng Sin-REUTERS

<北朝鮮による暗殺事件の実行犯とされた女性たち。昨年8月の公判では「十分な証拠がある」とされたが──>

マレーシアのシャーアラム高等裁判所は3月11日、クアラルンプール国際空港で2017年2月に北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男氏が猛毒のVXガスで暗殺された事件で、実行犯の一人として逮捕、起訴、殺人容疑で公判中だったインドネシア人女性シティ・アイシャ被告(27)の容疑を却下し、即日釈放した。

アイシャさんはクアラルンプール市内のインドネシア大使館に向かい、11日夕方にインドネシアに帰国した。

地元紙などの情報によると、アイシャさんを殺人罪で起訴したマレーシア検察庁のトミー・トーマス検事総長が3月8日付けの書簡で「アイシャ被告の容疑を却下する」との決定を裁判所に送っていたという。これを受ける形で同高裁のアズミン・アリフィン判事が「検察側の起訴取り下げ要求を受け入れてアイシャ被告を釈放した」ことを明らかにした。

アイシャさんの釈放を決めた高裁や起訴の取り下げ要求を出した検察側は、その理由については一切明らかにしていない。

アイシャさんと一緒に実行犯として逮捕され、同じく殺人容疑で公判中のベトナム人女性、ドアン・ティ・フォン被告については「公判が続けられる」との情報と「近く同様に釈放される」との情報が錯綜しており、現時点でははっきりしない。

ドアン被告は11日に公判で証言する予定だったというが、弁護士の要請で延期されていた。これはドアン被告にもアイシャさんの釈放情報が流れたため、対応を協議するために延期されたとみられている。

インドネシア政府との政治的駆け引き

マレーシアの主要日刊紙「ニュー・ストレート・タイムズ」(ネット版)はアイシャさん釈放のニュースを「インドネシアによる釈放要求にマレーシアが合意した」との見出しで伝えており、今回の釈放の背景にインドネシア政府によるたび重なる釈放要求にマレーシア側が最終的に合意した構図があることを示している。

事件発生直後から2被告が「テレビのどっきり番組だと思っていた」として殺意を否認するなど、事件で果たした役割から「殺人罪」の適用は「正義と公正を欠く」としてインドネシア政府などは外務省、クアラルンプールのインドネシア大使館を通じてアイシャ被告の支援を続けていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

訂正-再送-米ワーナー、パラマウントの買収案を拒否

ビジネス

企業は来年の物価上昇予測、関税なお最大の懸念=米地

ビジネス

独IFO業況指数、12月は予想外に低下 来年前半も

ビジネス

EU、炭素国境調整措置を強化へ 草案を正式発表
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 7
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中