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グーグルよ、「邪悪」になれるのか?――米中AI武器利用の狭間で

2019年3月25日(月)13時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

同コラムでは、中国がAI国家戦略の達成を3段階に分け、各段階における達成目標と産業規模をご紹介したが、その第一段階(~2020年)を実現するための手段の一つとして、北京に「グーグルAI中国センター」を設立したと解釈するのが妥当だろう。

注目すべきは「次世代AI発展計画」の「三、重点任務」の中の(四)には「AI軍民融合領域を強化せよ」という項目があることだ。

これはまさに米上院の軍事委員会公聴会で軍当局が示した「中国による民間技術の軍事面への転用を容易にする役割をグーグルが果たす可能性がある」ことへの懸念の正当性を裏付けている。

上記(四)のAI軍民融合強化の項目には、その目的を果たすために「科学研究所や大学、企業などと軍事産業が常態的に提携し協調するメカニズムを構築すること」とある。

この文言は実際上、「グーグルなどのAI開発に優れた米大手IT企業と中国のAI産業を結びつけた研究所を中国に設置せよ」と中国政府が暗に指示したに等しい。研究組織を通して、アメリカの国防に協力している最先端のAI技術を中国が頂こうという構図が見えてくる。

「環球時報」は「呆気にとられる!グーグルが中国人民解放軍を助けているだって?」という見出しで、長文の批難記事を掲載しているが、米軍当局者が米上院の軍事委員会公聴会で述べた懸念は、少しも「呆気にとられる」ようなことではなく、非常に現実味を帯びた警告と言わねばなるまい。

「グーグルの女神」李飛飛(リー・フェイフェイ)と「AIの民主化」

「グーグルAI中国センター」設立時にグーグル側から派遣された代表は、グーグル・クラウドのAI事業部を担当していた李飛飛(Fei-Fei Li、リー・フェイフェイ)という女性科学者だった。

1976年に北京で生まれ、四川省で育った後に、天安門事件後の1993年に両親に連れられて渡米した李飛飛は、苦学しながらプリンストン大学を卒業し、若くしてスタンフォード大学の教授になっていた。

そして2017年1月4日、スタンフォード大学AI実験室の主任の身分のままグーグルのAI事業部における研究をも、チーフ・サイエンティストとして担当するようになる。

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