最新記事

オピニオン

中国が先頭に立つ、再生可能エネルギー経済の新秩序

Here Comes the Sun

2019年2月18日(月)11時40分
アドナン・アミン(国際再生可能エネルギー機関事務局長)

ヨーロッパではドイツが昨年、電力の40%以上を再生可能エネルギーで賄った。デンマークも同じく半分以上を発電している。中米のコスタリカでは2017年に300日間、全ての電力を再生可能エネルギーで賄った。

もちろん、エネルギー生産の変化だけで国際関係がひっくり返ることはない。ただし、「エネルギー外交」がこれまでのような力を持つことはなくなる。近い将来、石油やガスといった化石燃料の輸出国が新エネルギー時代に向けて経済を再構築しない限り、その世界的な影響力は低下していくだろう。

リスクを上回る恩恵がエネルギー貿易の地理的状況も一変するかもしれない。輸送ルートはそれほど重要ではなくなる。優れた「接続性」やネットワーク、グリッドインフラ(送電線や電力貯蔵施設など)を持つ国が、エネルギー供給ルートの支配において戦略的に優位に立つだろう。

その点、インフラを整備してアジア、アフリカ、ヨーロッパをつなごうという中国の「一帯一路」構想は重要だ。再生可能エネルギーの送電網でアジア各地を結ぶ「アジアスーパーグリッド構想」のように、近隣諸国の送電網を統合する動きも出てくるかもしれない。

エネルギーの転換にリスクがないわけではない。従来のエネルギーシステムの衰退は、社会的緊張やエネルギー産業における雇用喪失、経済的リスクなどのストレスを発生させる。これらの上手な管理が必要だ。

コバルトやリチウムなど再生可能エネルギー技術に欠かせない鉱物の需要増も、緊張や紛争を引き起こす可能性がある。

それでも、新エネルギー時代の恩恵はリスクを上回る。エネルギー外交の衰退とともに、外交政策の輪郭が変異し、世界の勢力図も変わるだろう。

政策立案者は再生可能エネルギーに転換するチャンスをつかみ、将来の課題に先んじるため、すぐに行動する必要がある。新エネルギー時代は、今とは全く異なる世界の形成を促進していく。そこではあらゆる国が恩恵を受けられるだろう。

<2019年2月19日号掲載>

※2019年2月19日号は「日本人が知らない 自動運転の現在地」特集。シンガポール、ボストン、アトランタ......。世界に先駆けて「自律走行都市」化へと舵を切る各都市の挑戦をレポート。自家用車と駐車場を消滅させ、暮らしと経済を根本から変える技術の完成が迫っている。MaaSの現状、「全米1位」フォードの転身、アメリカの自動車ブランド・ランキングも。

ニューズウィーク日本版 日本時代劇の挑戦
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月9日号(12月2日発売)は「日本時代劇の挑戦」特集。『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』 ……世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』/岡田准一 ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ユーロ、対ドルで約7週間ぶり高値 好

ビジネス

米国株式市場=続伸、指標受け利下げ観測継続 マイク

ワールド

トランプ氏、エヌビディアCEOと面会 輸出規制巡り

ビジネス

米輸入物価、9月は前月から横ばい 消費財価格がエネ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 6
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中