最新記事

ヘルス

脳の快感を呼ぶASMR(自律感覚絶頂反応)って何?

THIS IS YOUR BRAIN ON NOTHING

2019年1月16日(水)16時40分
ザック・ションフェルド(カルチャー担当)

この女性チア・リン・クワはウィスパーロッジから派遣されてきた。前出のラウと、劇作家のアンドルー・ホフナーが共同で設立したウィスパーロッジにはASMR体験の「イマーシブ(没入型)シアター」がある。これは10人限定のセッションだが、別に一対一の「ウィスパー・オンデマンド」もあり、料金は45分100ドルから。エステのマッサージ並みの料金だが、(少なくとも私には)エステと同じくらいの効果があった。実を言えば、私は子供の頃からASMRのような感覚を覚えていた。

シンガポール出身で26歳のラウも10代の頃に、YouTubeで不思議な映像を見つけた。その動画をこっそり見ていると、厳格な家庭で暮らすストレスが減ったという。

「そんな動画を見ているなんて、恥ずかしくて人に言えなかった」と振り返るラウはある晩、映像のコメント欄をヒントに「ASMR」を検索してみた。「そしたら同じ感覚を持つ人が大勢いて、ああ自分はおかしくないんだと安心できた」

大学では美術を専攻し、卒業論文のテーマはASMR。やがてイマーシブシアターに夢中になったことから、ホフナーと出会った。ホフナーはASMRを知らなかったが、自身が主宰する没入型パフォーマンス『ハウスワールド』の観客には、期せずしてASMR効果を及ぼすことがあったようだ。

「ウィスパー・オンデマンド」を受けるときは「ささやきとボディータッチに性的な含みはない」ことを確認し、服を脱がないという誓約書にサインする。クワは手近なテーブルにブラシやタコ型マッサージ器を置く。それを見ただけで、私はわくわくした。

音楽が流れ、彼女がささやき始めた瞬間、部屋の分子構造が変わる。気まずさが消えて心が静まり、なんというか......守られている気がする。

最初はかすかなぞくぞく感も、次第に強くなってくる。ブラシでなでられてうっとりし、くしで頭皮を刺激されて恍惚とする。サルが毛づくろいでこんな快感を味わっているのなら、来世はサルに生まれたい。

そして時間の感覚が消えた頃、かなたからクワの声がする。「セッションは終わりです。ローズマリーのミストをひと噴きしましょうか」

ああ、もちろん。もっとぞくぞくさせてくれ。

<本誌2019年01月15日号掲載>

※2019年1月15日号(1月8日発売)は「世界経済2019:2つの危機」特集。「米中対立」「欧州問題」という2大リスクの深刻度は? 「独り勝ち」アメリカの株価乱降下が意味するものは? 急激な潮目の変化で不安感が広がる世界経済を多角的に分析する。

ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ソフトバンクG、オープンAIとの合弁発足 来年から

ビジネス

PayPayの米上場、政府閉鎖で審査止まる ソフト

ワールド

マクロスコープ:高市首相が教育・防衛国債に含み、専

ビジネス

日鉄、今期はUSスチール収益見込まず 下方修正で純
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中