最新記事

インターポール

ロシアは「国際手配書」で、インターポールを私物化する

2018年12月15日(土)14時45分
カムラン・ボカリ(安全保障、外交専門家)

ロシアによるインターポールの政治利用は続きそうだ(フランス・リヨンの本部) Julien Viry/iStockphoto

<プーチン側近が新総裁に選出されず一安心だが、手配書乱発による影響力が今後もEUを脅かす>

ロシアのプーチン大統領はもう長いこと、ロシアの勢力拡大のために、数々の主要国際機関で自らの影響力をフル活用してきた。国連では拒否権を行使してシリア内戦を操り、化学兵器禁止機関では調査を妨害した。

だが、何よりプーチンが影響力を行使している機関は国際刑事警察機構(インターポール)だろう。加盟各国に容疑者の身柄拘束を要請できる「赤手配書(国際手配書)」をロシアは政敵をつぶす目的で乱発している。

ターゲットは時にはロシアの反体制派、時には環境活動家。そして、ハンガリー企業の会長のような無害な人間が標的にされる場合もある――運悪く、ロシアの巨大エネルギー企業ガスプロムに競り勝ってしまったという理由で。

そんな状況だから11月下旬、インターポールの新総裁に韓国の金鍾陽(キム・ジョンヤン)が選出されると、自由主義世界は安堵した。プーチン側近でロシア内務省出身のアレクサンドル・プロコプチュク副総裁が、第1候補とされていたからだ。とはいえ、ロシアによるインターポール私物化の恐れが消えたわけではない。

大きな権限を持たないインターポール総裁の重要性は、これまで欧米諸国で過小評価されていた。だが外国におけるロシアの巧妙な選挙介入や世論操作の疑惑が高まるにつれ、世界最大の警察機関がロシアに乗っ取られるとの警戒も高まっていった。

マフィアさながらの手法

赤手配書は、間違った使い方をすれば深刻な事態をもたらす。ロシアはその乱用者の筆頭だ。これまでもたびたび、インターポールは政治利用されてきた。

その最新にして最重要の例が、ハンガリー石油精製最大手MOLのゾルト・ヘルナーディ会長だ。クロアチアの半国営石油会社INAへの投資でMOLがガスプロムを下して契約を勝ち取ると、13年に贈賄容疑でヘルナーディに赤手配書が発行された。

間もなく疑惑は晴れ、ヘルナーディの赤手配書は16年に撤回された。だが、その後もロシアはクロアチア政府へのロビー活動を続け、MOLとINAの契約を無効にするよう迫った。契約は贈収賄により成立したと主張したのだ。

すると今年11月、ヘルナーディは16年に撤回されたのと同じ容疑で、再び赤手配書を発行された。さらに特筆すべきは、クロアチア政府がロシアに対してかなり好意的な姿勢を見せていることだ。MOLにINAの株式返還を要求し、ロシアと新たな戦略的パートナーシップを結びたい、と宣言している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

再送-〔ロイターネクスト〕米第1四半期GDPは上方

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円以外で下落 第1四半期は低

ビジネス

日本企業の政策保有株「原則ゼロに」、世界の投資家団
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中