最新記事

事件

マレーシア当局、前政権の1MDB汚職事件でゴールドマンを起訴 元社員ら4人も

2018年12月18日(火)18時21分
大塚智彦(PanAsiaNews)


マレーシア当局が1MDB汚職事件でゴールドマンを起訴したことを伝える現地メディア The Star Online / YouTube

政権交代で捜査のメス本格化

マレーシアは2018年5月9日の下院総選挙で史上初の政権交代が実現し、マハティール元首相が首相の座に返り咲いた。そしてナジブ前首相やナジブ政権の汚職、不正問題の徹底捜査、解明を優先して進めてきた。

ナジブ政権下で設立された1MDBは当初は不動産や電力事業などへの投資で国内産業の底上げ、振興を目指す目的だったが、次第に債務がかさみ、その一方で早い段階から不正資金流用疑惑が浮上していた。

しかし、設立を積極的に後押ししたとされるナジブ前首相が疑惑を全面的に否定するなかで本格的な疑惑追及には踏み切れなかった経緯がある。

政権交代を目指したマハティール元首相率いる野党が公約の一つとして掲げたのがナジブ政権の不正、汚職の徹底解明だったことから、政権交代実現で1MDBに関連した巨額の債務問題と不正資金流用問題が改めて浮上、捜査が本格的に始まることになった。

マハティール首相は11月13日、テレビとのインタビューで1MDB 疑惑に関連して「ゴールドマン・サックスが不正を働いた証拠がある。ゴールドマン・サックスは明らかにマレーシアを騙した」と述べて、厳しい姿勢で臨むことを明らかにしていた。

ナジブ前首相は1MDBの関連会社を経由して個人口座に巨額の資金が流入した容疑が濃厚となり、前首相はじめ当時の関係者への捜査、刑事訴追の手続きが進められた。

その結果、ナジブ前首相は検察側から7月に背任罪、収賄罪、職権乱用罪などで起訴され、8月には資金洗浄(マネーロンダリング)容疑などで追起訴されている。

だがナジブ前首相は全ての容疑で無罪を主張しており、裁判の長期化の懸念もでている。

今回マレーシア側がゴールドマン・サックスを相手取って起訴に持ち込んだことで、1MDBを巡る巨額の不正資金流用問題と債務問題に本格的な司法のメスが入ることになり、全容解明に向けて大きな前進となりそうだ。このため疑惑追及をマハティール首相率いる野党に託したマレーシア国民は、裁判の行方に注目と期待を寄せている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米雇用、11月予想上回る+6.4万人・失業率4.6

ビジネス

ホンダがAstemoを子会社化、1523億円で日立

ビジネス

独ZEW景気期待指数、12月は45.8に上昇 予想

ワールド

トランプ氏がBBC提訴、議会襲撃前の演説編集巡り巨
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「日本中が人手不足」のウソ...産業界が人口減少を乗…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中