最新記事

中東

観光復興を目指すシリアの光と影

Syria Promoting Tourism

2018年11月21日(水)19時15分
ジェイソン・レモン

もっとも、バイクなどの燃料を買う余裕がないことも理由の1つかもしれない。商店の人々は、自転車は懐にも環境にも優しい乗り物だと彼女に言った。

女性の1人旅でも安心だったとも、ゼインは言う。時々「卑猥な言葉を投げ掛けられたが、世界のどこへ行ってもあることだから」。

シリアにはキリスト教やイスラム教の神聖な寺院も多く、宗教観光も以前から盛んだ。ゼインがダマスカスを訪れたのは、シーア派最大の宗教行事アシュラの直前。シーア派の重要なモスク、サイイダ・ザイナブ廟の参拝に来た人が多かった。

31歳のレバノン女性カウサルは5〜6月のラマダン(断食月)中にダマスカスに遊びに行ったと、本誌に語った。それまではシリアに旅する友人を「頭がおかしい」と思っていたが、情勢が落ち着いてきたと判断。友人たちの誘いに乗って小旅行に出掛けることにしたという。

日没後の飲食が許される時間帯になると「旧市街は買い物やそぞろ歩きを楽しむ地元の人たちでにぎわっていて、平穏な光景だった」。一方で、短い滞在の間にも多くの国内難民を目にしたのも事実だ。

今度はもっと時間をかけてシリア各地を訪れたいかと聞くと、「もちろん」と、彼女は答えた。「多くの都市が破壊されたのは知っているけれど、復興のプロセスを自分の目で見てみたい」

とはいえ反政府派の支配下にある地域もまだかなり残っている。シリア政府軍側の攻撃に加え、米軍主導の有志連合による空爆も一部地域で続いている。ダマスカスや北西部ラタキア県の沿岸部など比較的安定した地域でも、テロや爆発事件は後を絶たない。国外に避難したシリア人の一部は比較的安全な地域に戻り始めたが、帰国をためらっている難民のほうがはるかに多いと、アナリストは指摘する。

「シリア観光を検討している人には警告したい。戦火が収まってきたようにみえても、今はまだ非常に危険だ」と、オランダのコンサルティング会社カタリスタスのシリア専門家、アビバ・スタインは本誌に語った。「外国人観光客を誘致できれば経済は上向くだろうが、シリアは全体としてはまだ不安定。予測不能の大規模攻撃や爆発のリスクが常にある」

文化財以外の「観光資源」

スタインによると、いま起きている攻撃の多くは、シリア政府が自国民に仕掛けたものだ。「何百万もの人々が家を追われ、多数の都市が破壊された。シリア経済を牛耳るのは、そうした惨状を招いた政権だ。そんな国に観光でカネを落としていいのか、よく考えてほしい」

シリア難民の中にはアサド政権が居座っている限り、祖国には戻りたくないと思っている人たちも多い。

「現政権は信用できない」と言い切るのは、母国で投獄され拷問を受け、国外に逃れた活動家のジュード・アシュだ。「彼らが正常化や和平合意を唱えても、説得力を持たない」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米英欧など18カ国、ハマスに人質解放要求 ハマスは

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

米新規失業保険申請5000件減の20.7万件 予想

ビジネス

ECB、インフレ抑制以外の目標設定を 仏大統領 責
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    自民が下野する政権交代は再現されるか

  • 10

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中