観光復興を目指すシリアの光と影
Syria Promoting Tourism
もっとも、バイクなどの燃料を買う余裕がないことも理由の1つかもしれない。商店の人々は、自転車は懐にも環境にも優しい乗り物だと彼女に言った。
女性の1人旅でも安心だったとも、ゼインは言う。時々「卑猥な言葉を投げ掛けられたが、世界のどこへ行ってもあることだから」。
シリアにはキリスト教やイスラム教の神聖な寺院も多く、宗教観光も以前から盛んだ。ゼインがダマスカスを訪れたのは、シーア派最大の宗教行事アシュラの直前。シーア派の重要なモスク、サイイダ・ザイナブ廟の参拝に来た人が多かった。
31歳のレバノン女性カウサルは5〜6月のラマダン(断食月)中にダマスカスに遊びに行ったと、本誌に語った。それまではシリアに旅する友人を「頭がおかしい」と思っていたが、情勢が落ち着いてきたと判断。友人たちの誘いに乗って小旅行に出掛けることにしたという。
日没後の飲食が許される時間帯になると「旧市街は買い物やそぞろ歩きを楽しむ地元の人たちでにぎわっていて、平穏な光景だった」。一方で、短い滞在の間にも多くの国内難民を目にしたのも事実だ。
今度はもっと時間をかけてシリア各地を訪れたいかと聞くと、「もちろん」と、彼女は答えた。「多くの都市が破壊されたのは知っているけれど、復興のプロセスを自分の目で見てみたい」
とはいえ反政府派の支配下にある地域もまだかなり残っている。シリア政府軍側の攻撃に加え、米軍主導の有志連合による空爆も一部地域で続いている。ダマスカスや北西部ラタキア県の沿岸部など比較的安定した地域でも、テロや爆発事件は後を絶たない。国外に避難したシリア人の一部は比較的安全な地域に戻り始めたが、帰国をためらっている難民のほうがはるかに多いと、アナリストは指摘する。
「シリア観光を検討している人には警告したい。戦火が収まってきたようにみえても、今はまだ非常に危険だ」と、オランダのコンサルティング会社カタリスタスのシリア専門家、アビバ・スタインは本誌に語った。「外国人観光客を誘致できれば経済は上向くだろうが、シリアは全体としてはまだ不安定。予測不能の大規模攻撃や爆発のリスクが常にある」
文化財以外の「観光資源」
スタインによると、いま起きている攻撃の多くは、シリア政府が自国民に仕掛けたものだ。「何百万もの人々が家を追われ、多数の都市が破壊された。シリア経済を牛耳るのは、そうした惨状を招いた政権だ。そんな国に観光でカネを落としていいのか、よく考えてほしい」
シリア難民の中にはアサド政権が居座っている限り、祖国には戻りたくないと思っている人たちも多い。
「現政権は信用できない」と言い切るのは、母国で投獄され拷問を受け、国外に逃れた活動家のジュード・アシュだ。「彼らが正常化や和平合意を唱えても、説得力を持たない」