最新記事

日中関係

安倍首相は「三つの原則」と言っていなかった──日本の代表カメラの収録から

2018年11月17日(土)20時20分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

これをご覧いただければ分かるように、そこには、「四」の冒頭に「四  双方は、互いに協力のパートナーであり、互いに脅威とならないことを確認した」とある。また「五の(4)アジア太平洋への貢献」には「双方は、中日両国がアジア太平洋の重要な国として、この地域の諸問題において、緊密な意思疎通を維持し、協調と協力を強化していくことで一致するとともに、以下のような協力を重点的に展開することを決定した」と断定的に書いてある。これは拘束力のある「原則」なのである。

ということは、安倍首相は李・習両首脳との会談において、あくまでも「四つの政治文書」のうちの「四番目に書いてある原則」を李・習両首脳と確認したのであって、一切、「三つの原則」に関しては触れてもいないし、「確認し合ってもいない」ということが結論される。

なぜ安倍首相は「三つの原則」を確認したと言ったのか

それならなぜ、安倍首相は「三つの原則」を確認し合ったと、国会でまで答弁するに至ったのだろうか。これは安倍首相に聞かなければわからないことではあるが、国会で「(李・習との)首脳会談で"三つの原則"を提起し、確認し合った」という趣旨の答弁をしている以上、われわれ日本国民には国会答弁の正当性の有無に関して考察する資格はあるだろう。

そこで時系列を見てみよう。

 (1)10月26日、李首相との会談を終えて今から習主席との会談に入る前というタイミングで、フジテレビが安倍首相を取材した。そのとき安倍首相は「今後の日中関係の道しるべとも言える三つの原則を確認しました」と高らかに言ってしまった。気分が高揚して、勢い余って言ってしまったのだろう。

 (2)言ってしまって、日本国民の知るところとなってしまったら、もう「そうだったことにするしかない」。それなのに習主席との会談後、西村官房副長官が「三つの原則という言葉は言ってない」と、正直に白状してしまった。

 (3)西村氏は非難を浴びたが、安倍首相が「言った」と表明している以上、それに合わせるしかないので西村氏は前言を翻した。

 (4)結果、「○○の上塗り」を重ねざるを得ず、遂に国会答弁という、責任を追及される場でも、更なる「上塗り」をしてしまったということではないかと、推測するのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英中銀が金利据え置き、5対4の僅差 12月利下げの

ビジネス

ユーロ圏小売売上高、9月は前月比0.1%減 予想外

ビジネス

日産、通期純損益予想を再び見送り 4━9月期は22

ビジネス

ドイツ金融監督庁、JPモルガンに過去最大の罰金 5
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの前に現れた「強力すぎるライバル」にSNS爆笑
  • 4
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 5
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 6
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 7
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇…
  • 8
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 9
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中