最新記事

歴史問題

植民地支配の亡霊はここにも 米政府、フィリピン人虐殺の戦利品「バランギガの鐘」返還へ

2018年11月15日(木)18時25分
大塚智彦(PanAsiaNews)


虐殺の遺産「バランギガの鐘」返還決定を伝えるフィリピンメディア ABS-CBS News / YouTube

ドゥテルテ大統領が重ねて返還要求

フィリピン人にとっては市民らが多く虐殺された歴史の象徴でもある「バランギガの鐘」は国家遺産ともいうべき重要なものとされ、かつてはラモス元大統領がクリントン米大統領に返還を求め、米側も返還意志を示したものの、各種事情から実現しない状態が続いていた。

ドゥテルテ大統領は2017年の大統領演説の中で「鐘は私たちフィリピン人の財産であり、国の遺産である。是非とも返還してほしい」と米側に強く求めていた。

今回の返還決定の背景には、フィリピンも領有権を主張している南シナ海で中国が島々の実効支配を進めるなか、米側も国際海域を軍艦を航行させる「自由の航行作戦」を繰り返し実施するなど、緊迫しつつある国際情勢がある。米トランプ大統領はこうした事情を踏まえ、対フィリピン関係を重視して返還に踏み切ったとみられている。

マティス国防長官が鐘の返還について「同盟国であり友人でもあるフィリピンの人びとにとって世代を超えた責任を果たすことで、両国民がお互いに尊敬しあい、米比2国間関係がより強固になるだろう」と述べていることからも、そうした米側の思いが伝わってくる。

ドゥテルテ大統領は東南アジア諸国連合(ASEAN)関連の会議でシンガポールを訪れているが、大統領府は鐘の返還に関して「歓迎する」とのコメントしかだしていないものの「より詳しいことは鐘がフィリピンに戻ってきてからのことになる」としている。

3つの鐘のうちの2つは米側の軍基地に保存され、残る1つは韓国にある在韓米陸軍の基地内に保管されているという。米側は近く3つ全ての鐘の返還手続きを開始して、数週間以内には返還する予定としている。

フィリピン側は3つの鐘が戻ってきた場合の返還記念式典、今後の保管場所などの具体的な検討を始めているとされ、年末に向けて大きな国家的行事が計画されているという。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

ニューズウィーク日本版 トランプのイラン攻撃
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年3月10号(3月3日発売)は「トランプのイラン攻撃」特集。核・ミサイル開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。アメリカとイランの全面戦争は始まるのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、イランとの合意は「無条件降伏」のみ 米

ワールド

ロシア、イランに米軍の位置情報提供か=報道

ビジネス

原油高「一過性」、金融政策への影響は限定=ウォラー

ビジネス

米雇用統計、労働市場の弱さ示唆 リスクは両面=SF
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だったはずの中国が、不気味なまでに静かな理由
  • 2
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示さない
  • 3
    10歳少女がライオンに激しく襲われる...中国の動物園で撮影された「恐怖の瞬間」映像にネット震撼
  • 4
    「みんな一斉に手を挙げて...」中国の航空会社のフラ…
  • 5
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 6
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 7
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 8
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 9
    「ハリポタ俳優で終わりたくない」...ハリー・メリン…
  • 10
    【イラン戦争で中東再編へ】トランプを止めるのは湾…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 9
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 10
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中