最新記事

移民排斥

「アメリカ生まれ=米国籍」をトランプが廃止する?

Trump vs The 14th Amendment

2018年11月10日(土)15時30分
シャンタル・ダシルバ

生まれた国アメリカに忠誠を誓っても、親が外国人や不法移民だと子供はアメリカ人になれない? Lucy Nicholson-REUTERS

<合衆国憲法が規定している「出生地主義」を覆すという、究極の反移民政策の真意と実現の可能性>

1868年7月9日に採択されたアメリカ合衆国憲法修正第14条は、解放された奴隷に国籍を付与する必要から生まれた。

南北戦争後に成立した3つの憲法修正条項の1つであるこの条項は、「合衆国で生まれ、あるいは国籍を取得した者で、かつその司法権に従属する全ての者は合衆国市民である」とうたう。つまり国内で生まれた子には自動的に米国籍を付与するという「出生地主義」の宣言だ。

以来、この条項は最高裁判所の多くの画期的な判決に重要な役割を果たしてきた。ところがトランプ大統領は、なんとそれを1本の大統領令で覆すという。

10月30日、トランプはインターネットメディア「アクシオス」のインタビューで、外国人や不法移民の子供でもアメリカで生まれれば米国籍を取得できるという制度を、大統領令で廃止する考えを示した。いわく、「アメリカは人間が来て出産するだけで、その子が85年間にわたり米国民としての恩恵を受けられる世界で唯一の国だ」。

例によって、これはトランプの嘘。「唯一の国」ではない。隣国カナダをはじめ、出生地主義とそれに準ずる制度を持つ国は約30カ国ある。それでもトランプは意に介さず、「ばかげた制度だ。廃止しなければならない」と言い張った。

トランプによれば、周囲からは出生地主義の廃止には「憲法の改正が必要」と言われ続けてきたが、実は「そんな必要はない」。「議会が動けばそれに越したことはないが、大統領令という手もある」

トランプは具体的な時期を明らかにしなかったが、既にホワイトハウスの法律顧問に指示し、実現に向けての作業に着手したと語っている。出生地主義の廃止に踏み切れば、トランプ政権による移民排斥大作戦のクライマックスとなるだろう。

中間選挙を意識した企て

もっとも、トランプが出生地主義を廃止することが現実的に可能なのかについては、法曹界から早速疑問の声が上がっている。例えば連邦控訴裁判所のジェームズ・ホー判事(トランプ自身が指名した人物だ)は、11年のウォール・ストリート・ジャーナル紙への寄稿で、修正第14条の解釈変更は「憲法違反」に当たると論じている。

一方、チャップマン大学憲法法律学センターのジョン・イーストマン部長はアクシオスに、この条項は過去40年にわたって誤って適用されてきたと語った。イーストマンによると、条文にある「司法権に従属する者」は国家への政治的忠誠を誓った者、つまりもともと市民権または永住権を有する者の意だという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税の影響で

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中