最新記事

米軍事

米INF全廃条約破棄の真の狙いは中国抑止

The INF Treaty and China

2018年11月1日(木)18時00分
ララ・セリグマン (フォーリン・ポリシー誌記者)

反核を掲げる兵器規制協会によれば、ボルトンが今年春に大統領補佐官に就任する以前、国防総省はINF条約の破棄が中国との競争において有益に働く可能性を否定していた。統合参謀本部のポール・セルバ副議長は17年7月の議会公聴会で、アメリカはINF条約の枠組みにのっとった軍備で十分に対抗できていると語ったという。

「時間は永遠ではない」

もっとも、ハリー・ハリス太平洋艦隊司令官(現駐韓国大使)は今年3月、INF条約が太平洋地域におけるアメリカの優位性を損ねていると警告している。ハリスは上院軍事委員会で「中国は西太平洋における米軍の基地と軍艦を脅かす地上発射型の弾道ミサイルを保有しており、アメリカは中国の後塵を拝している」と語った。「わが国は中国を脅かせる地上配備型の軍備を保有していない。理由はほかにもあるが、主な原因はINF条約にかたくなにこだわっていることだ」

戦略国際問題研究所のトーマス・カラコも、INF条約からの脱退が有益との見解に同意する。「最も直近かつ短期的に影響を受けるのは、陸軍の長距離精密火力プログラムだろう」と、カラコは指摘する。「INF条約の足かせに縛られる必要がなくなる」

地上配備型の防衛システムを重視する主張には先例もある。ワシントンにあるシンクタンク「戦略予算研究センター」のアンドルー・クレピネビッチ所長(当時)は15年、日本やフィリピン、台湾などを結ぶ防衛ライン「第一列島線」に沿って軍備を展開する「島嶼防衛」戦略を提唱した。

彼は、米軍と日本などの同盟国は中国の巡航ミサイルを迎撃すると同時に、この防衛ライン上で中国機を撃墜できるような長距離の防衛システムを構築すべきだと訴えた。つまり、陸軍の砲兵隊を沿岸防衛に使用するという、第二次大戦後に葬り去られたミッションの復活を提言したわけだ。

コルビーも、太平洋地域におけるアメリカの影響力保持の緊急性を訴えている。「アメリカは5年近くにわたってロシアに(INF条約を)守らせようと必死になってきた。時間は永遠にあるわけではない。特に太平洋地域では」

From Foreign Policy Magazine

<本誌2018年11月6日号[最新号]掲載>

ニューズウィーク日本版 習近平独裁の未来
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年2月17号(2月10日発売)は「習近平独裁の未来」特集。軍ナンバー2の粛清劇は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」強化の始まりか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、石炭火力発電支援へ 国防総省に電力契約

ワールド

EU、CO2無償排出枠の見直し検討 炭素市場改革

ビジネス

パラマウント、WBD買収条件引き上げ 違約金など負

ビジネス

円続伸し153円台後半、ドルは弱い指標が重し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 2
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...周囲を気にしない「迷惑行為」が撮影される
  • 3
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 4
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を…
  • 5
    崖が住居の目の前まで迫り、住宅が傾く...シチリア島…
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    変わる「JBIC」...2つの「欧州ファンド」で、日本の…
  • 8
    衆院選で吹き荒れた「サナエ旋風」を海外有識者たち…
  • 9
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 10
    まさに「灯台下暗し」...九州大学の研究チームが「大…
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 5
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中