最新記事

中国経済

加入者が1日100万人?──アリババ会員向け重大疾病保障とは?

2018年11月12日(月)19時00分
片山ゆき(ニッセイ基礎研究所)

アリペイによれば、例えば500万人が加入したとして、重大疾病の診断を受けた患者が1回の公示で100名となった場合、最も多くて30万元×100名で3,000万元の給付金と、3000万元×10%で300万元の管理費を合計し、3,300万元となる。これを500万人で除した場合、1期・1人あたりの保障コストは、最も多くて6.6元となる。アリペイ側は、毎期の保障コストは多くても10元以下と推算している。なお、事案1件あたりの支払額が0.1元を超える場合、信美人寿がその分を補填することになっている。
 
保障コスト(保険料負担)といった面から考えると、一般的な重大疾病保険に加入する場合、年齢や保障内容によるが、年間保険料は200~2,000元ほどが必要となる3。中国では公的医療保険制度は整備されつつあるが、高額な治療費が必要となった場合の自己負担は重くなっている。悪性腫瘍などの重大疾病の治療には50~60万元が必要とされており、疾病に罹患した患者のうち、およそ42%は家計が貧困に陥っているという発表もある4。また、中国保険業協会によると、重大疾病への備えが必要とは思いつつ、保険に加入していない人は82.1%、47.8%が何らかの医療保険に加入する必要があると思っているものの、実際に加入できているのはわずか6.7%に留まっている。今般の重大疾病保障のように、保障コストが年間で100~200元に抑えられれば、加入に際してのハードルは低くなる。加えて、運営において、発生した事案が公開されること、管理費を明示していることなどから、透明性の高い医療保障として信頼を獲得し、短期間で加入者数が急増したと考えられる。

4──新たな保険商品?プラットフォーマーによる保険分野への進出

このように、アリババグループによるこれまでに無かった医療保障のあり方は、言わば、最も古くて最も新しいものといえるかもしれない。会員に疾病者が発生した場合、それぞれが同額を負担して相互救済するという伝統的な理念を、ブロックチェーンなど最も新しい技術で実現している。ただし、これまでの歴史が証明しているように、年齢や性別に関係なく負担(保障コスト)が同一であるが故に発生するモラルリスクの問題や、若年の加入者間で不公平感が発生し、加入者の大幅な減少によって運営を維持できない可能性がある点にも留意が必要である。

――――――――

3 保険金30万元のケースを想定している。
4 「42%は家計が貧困に陥っている」の部分については、国務院扶貧開発領導小組弁公室による発表

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB追加利下げ、ハードル非常に高い=シュナーベル

ビジネス

英BP、第2四半期は原油安の影響受ける見込み 上流

ビジネス

アングル:変わる消費、百貨店が適応模索 インバウン

ビジネス

世界株式指標、来年半ばまでに約5%上昇へ=シティグ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 10
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中