加入者が1日100万人?──アリババ会員向け重大疾病保障とは?
アリペイによれば、例えば500万人が加入したとして、重大疾病の診断を受けた患者が1回の公示で100名となった場合、最も多くて30万元×100名で3,000万元の給付金と、3000万元×10%で300万元の管理費を合計し、3,300万元となる。これを500万人で除した場合、1期・1人あたりの保障コストは、最も多くて6.6元となる。アリペイ側は、毎期の保障コストは多くても10元以下と推算している。なお、事案1件あたりの支払額が0.1元を超える場合、信美人寿がその分を補填することになっている。
保障コスト(保険料負担)といった面から考えると、一般的な重大疾病保険に加入する場合、年齢や保障内容によるが、年間保険料は200~2,000元ほどが必要となる3。中国では公的医療保険制度は整備されつつあるが、高額な治療費が必要となった場合の自己負担は重くなっている。悪性腫瘍などの重大疾病の治療には50~60万元が必要とされており、疾病に罹患した患者のうち、およそ42%は家計が貧困に陥っているという発表もある4。また、中国保険業協会によると、重大疾病への備えが必要とは思いつつ、保険に加入していない人は82.1%、47.8%が何らかの医療保険に加入する必要があると思っているものの、実際に加入できているのはわずか6.7%に留まっている。今般の重大疾病保障のように、保障コストが年間で100~200元に抑えられれば、加入に際してのハードルは低くなる。加えて、運営において、発生した事案が公開されること、管理費を明示していることなどから、透明性の高い医療保障として信頼を獲得し、短期間で加入者数が急増したと考えられる。
4──新たな保険商品?プラットフォーマーによる保険分野への進出
このように、アリババグループによるこれまでに無かった医療保障のあり方は、言わば、最も古くて最も新しいものといえるかもしれない。会員に疾病者が発生した場合、それぞれが同額を負担して相互救済するという伝統的な理念を、ブロックチェーンなど最も新しい技術で実現している。ただし、これまでの歴史が証明しているように、年齢や性別に関係なく負担(保障コスト)が同一であるが故に発生するモラルリスクの問題や、若年の加入者間で不公平感が発生し、加入者の大幅な減少によって運営を維持できない可能性がある点にも留意が必要である。
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3 保険金30万元のケースを想定している。
4 「42%は家計が貧困に陥っている」の部分については、国務院扶貧開発領導小組弁公室による発表