最新記事

貿易戦争

トランプ貿易戦争の皮肉 ブラジル農家に豊かにし米国農家を苦しめる

2018年10月20日(土)11時01分

米国農業地帯の痛み

長年、米国農業の中心地であるアイオワ州の見通しは暗い。

同州のトウモロコシ生産量は全米1位で、大豆は2位だ。しかし、トランプ政権下で、世界市場に向けた一部のアクセスが痛手を受けた。

トランプ大統領は、日本など重要市場に対する米国産農産物のアクセスを拡大するはずだった環太平洋連携協定(TPP)から離脱。また、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉では、米国産トウモロコシの最大の輸入国であるメキシコを、ブラジルなど他の供給国を探すよう追い込んだ。そしていま、中国が米国産の輸入を減らしている。

ブーンは、アイオワ州のど真ん中に位置し、広大な農地や養豚場、養鶏場などに囲まれている。アイオワ州立大学によると、2012年から17年にかけ、この地の農地価格は12%下落した。

米中貿易戦争に対する懸念は、最近ここで行われた農業フェアでも見て取れた。

中古トラクターや農機具のオークション会場で価格をメモしていた農機具ディーラー、リー・ランドール氏は、貿易摩擦や穀物価格の低下で、オークション価格も低下していると語る。

鮮やかな緑と黄色の農業機械大手ディア製中古コンバイン2台が、それぞれ11万8000ドルと8万2000ドルで落札されたのを見てランドール氏は首を振った。「5年前なら、これより3割増しの値が付いたはずだ」

ドイツ製薬・化学大手バイエルの農業部門クロップ・サイエンスのブレット・ベーグマン最高執行責任者(COO)も、種子や農薬の買い入れに対して農家が慎重になっていると話す。貿易摩擦によって、バイエルは同部門の2019年業績予測が難しくなっている。

ブーンから車で2時間の位置に、約5500人が住むアルゴナの町がある。農家の苦境によって、地元のディアやオートバイ製造大手ハーレー・ダビッドソンのディーラーの業績が悪化している。

「最終的には、この地域は農業で生かされ、農業で死ぬ」と、ハーレーのディーラーを経営するジム・ウィルコックス氏は言う。

農家の苦しみは、銀行のバランスシートにも現れている。シカゴ地区連銀によると、この地域で「返済に問題あり」と報告された農業融資の割合は第2四半期に増加し、2002年半期以来の高水準に達した。

アルゴナ近郊で農場を営むロドニー・ジェンセン氏は、まだ価格が高かった時期に秋に収穫した大豆の売却契約を結ばなかったことを悔やんでいると言う。多くの農家と同様、ジェンセン氏も価格上昇を待って収穫した大豆を貯蔵する考えだ。

だが、米中関係が修復されたとしても、中国がかつてほどは米国産の大豆を買い入れなくなる懸念もあるという。

「この辺で聞こえてくるのは、悲観論ばかりだ」と、ジェンセン氏は言った。

(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

Jake Spring and Tom Polansek

[ルイスエドワルド(ブラジル)、ブーン(米アイオワ州) 11日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午前の日経平均は続伸、米株高と円安を好感 直近の戻

ワールド

シンガポール非石油輸出、5月は前年比3.5%減 大

ビジネス

ボーイング幹部、エア・インディア本社訪問 墜落事故

ビジネス

ソフトバンクG、Tモバイル株売却で48億ドル調達=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 7
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 8
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 9
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 10
    「そっと触れただけなのに...」客席乗務員から「辱め…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 4
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中