最新記事

北朝鮮

北朝鮮「不動産バブル」崩壊で大打撃か......金正恩も黙認する闇市場

2018年10月16日(火)13時30分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

平壌市内中心部にある高級マンションの価格は夏頃から下落を始めた Reinhard Krause-REUTERS

<バブル並みに高騰を続け、北朝鮮の有力な財テクの手段となってきた北朝鮮のマンション価格は、8月ごろから急落して今や2015年の水準に逆戻りしてしまった>

北朝鮮の不動産市場に、暗雲が立ち込めている。平壌やその周辺部の高級マンションの価格が、7月から8月の1ヶ月で3割以上も下落。それに引きずられて、地方のマンション価格までが暴落しているのだ。

完成したばかりのマンションが崩壊して数百人が死亡したり、工事現場でも事故が相次いだりしている北朝鮮のマンションだが、この間にバブル並の価格高騰を続け、同国内では最も有力な財テク手段となってきた。そのため価格の崩壊は、同国経済に大きな影響を与える可能性がある。

参考記事:「手足が散乱」の修羅場で金正恩氏が驚きの行動...北朝鮮「マンション崩壊」事故

平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると、平壌市内中心部にある230平米の高級マンションは、2016年には10万ドル(約1120万円)、昨年には20万ドル(約2240万円)を突破し、今年の6月までは30万ドル(約3360万円)に達するものもあった。ところが、7月から下落を始め、8月には5万ドル(約560万円)以上も値を下げた。

一方、韓国の大韓貿易投資振興公社(KOTRA)の今年6月の報告書によると、中国との国境都市・新義州(シニジュ)のマンション価格は1平米あたり720ドル(約8万1000円)だった。現地のデイリーNK内部情報筋によると、下落は8月頃から始まり、今では300~400ドル(約3万4000円から4万5000円)と、2015年の水準に逆戻りしてしまった。

「新義州では内装工事をしていない新築マンションが100平米で1万ドル(約113万円)、内装工事を終えたもので3万ドル(約339万円)になった。これでは対岸の中国と比べるとタダ同然だ」(情報筋)

このように、資本主義国におけるバブル同様、激しい値動きをする北朝鮮の不動産市場だが、本来、同国では土地や建物は国の所有となっており、金銭での取り引きは違法だ。しかし、計画経済と配給性の崩壊で、なし崩し的に市場経済化が進行。そこで台頭した「トンジュ(金主)」と呼ばれる新興富裕層が、不動産部門の官僚たちをワイロ漬けにしながら、闇市場で不動産の取り引きを始めたのだ。

参考記事:北朝鮮で「サウナ不倫」が流行、格差社会が浮き彫りに

今では国家も、そのような流れを黙認している。2000年代からは、行政機関などが住宅の資材、労働力をトンジュを通じて調達し、その見返りに住宅や分譲権を提供するようになった。そして金正恩体制になってからは、トンジュが建設費を投資する形になった。平壌市内では、国の進める未来科学者通り、黎明(リョミョン)通りなどでマンション建設が行われ、利ザヤ目当ての投資も活況を呈していた。

平城では、内装を終えていないマンション(北朝鮮では一般的)を売れば分譲価格の3割が利益になり、それを次の物件に投資する形で、カネがカネを生んでいたのだ。

ところが、ここへ来て取り引き価格の暴落が起きた。情報筋は、今回の不動産価格の下落の理由について供給過剰を挙げている。

「平壌には黎明通りなど大規模なマンション団地ができて物件が増加したが、一方で(国際社会の対北朝鮮制裁などで)ビジネスが思うように行かなくなった人々が所有するマンションを売りに出していて、供給がさらに増えた」

マーケットは存在すれども、まだまだ未熟であり、調整機能までは期待できない。また、経済制裁の影響を受けているとなれば、価格の下落がいつ反転するかも予想不能だ。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米連邦最高裁、中立でないとの回答58%=ロイター/

ワールド

イスラエル・イラン攻撃応酬で原油高騰、身構える投資

ワールド

核保有国の軍拡で世界は新たな脅威の時代に、国際平和

ワールド

米政権、スペースXとの契約見直し トランプ・マスク
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中