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イスラム女性は柔道NG? インドネシア、アジア・パラ大会で国際連盟の規定が問題に

2018年10月9日(火)17時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)


今回の問題を伝える現地メディア GTV News/YouTube

「ナイキ」が競技用ヒジャブを販売

イスラム教徒の女性は頭髪、頭部、首を覆うヒジャブを着用することを身だしなみと考える傾向がある。しかし全てのイスラム教徒女性が着用している訳ではなく、普通に頭髪を見せている女性から、頭部・頭髪・首を覆う「ヒジャブ」だけの女性、「ニカブ」と呼ばれる目の部分以外の全身を覆う装束を身に着けて外出する女性、アフガニスタンに多い「ブルカ」という目の部分も網状の布で覆う装束もあるなど一様ではない。

2014年の韓国・仁川でのアジア大会ではバスケット女子競技でヒジャブ着用での参加が認められなかったカタールチームが試合を放棄した例もある。カタール側は「事前にはヒジャブ着用OKと聞いていたが、試合直前に禁止と言われた」として規定そのものに加えて大会運営側の不手際も問題となった。

スポーツ競技の世界では競技相手と接触のないアーチェリーや陸上競技などではヒジャブは特に問題にはなっていない。また女子サッカーの世界でも近年は大会によってはヒジャブ着用を認めるケースもあるという。

こうした動きを後押ししているのが運動用具メーカー「ナイキ」が2017年2月から販売を開始した軽量で通気性の高い運動選手用のヒジャブ「プロヒジャブ」の普及だ。「プロヒジャブ」のキャッチフレーズは「スポーツは全ての人のためのもの」で、宗教上の服装への全面禁止の動きにいかに柔軟に対応して「より多くの女性が競技に参加できるか」という問題への「1つの回答」を企業として示したものといえる。

2020年東京五輪までの見直し要求

その一方でインドネシア・アジア・パラゲーム組織委員会のシルビアナ・ムリヤナ副会長は、スポーツ選手用のヒジャブも開発、販売されるなど多様なあり方が各競技団体で検討されていることを受けて「国際柔道連盟もルールの柔軟な対応を進めて2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックまでに(服装規定の)見直しが行われることを望む」との立場を明らかにしている。

世界一のイスラム教徒人口を擁するインドネシアでは各種スポーツの競技人口に占めるイスラム教徒の数も多い。このため女子の格闘技系競技や団体スポーツなどでは、ヒジャブの着用に関する規制を緩和することが「イスラム教徒の女性アスリートの活躍の場を広げる」ことに直結するとの立場を今後推し進めることにしており、服装規定を設けている各競技の国際組織は今後対応を迫られることになりそうだ。


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大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

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