最新記事

イスラエル

ユダヤ偏向のイスラエル観光ツアーに異議あり

Rebelling on Israeli Heritage Trips

2018年9月4日(火)15時45分
デービッド・ブレナン

ツアーを離れた若者たちは、バースライトのツアーに反対する活動家の支援を得て、ヨルダン川西岸にあるパレスチナ人のコミュニティーを訪問した。その途中ではイスラエル人の入植者による嫌がらせを受け、罵られたりもした。

それでもグリーンブラットは、離脱組のしたことは「正しい」と考え、この国の厳しい現実から目を背けるのは間違いだと言う。「意見の異なる人を受け入れ、何が問題で、どうすれば解決できるのかを真剣に話し合う。そうすれば、イスラエルはもっと強くなれる」

バースライトの活動はアメリカと密接に結び付いている。これまで何万もの若いユダヤ系アメリカ人がツアーに参加しているが、必要な資金の多くを提供しているのはアメリカ在住のユダヤ人だ。最大の寄付者は、カジノ王で熱烈な共和党支持者のシェルドン・エーデルソン。設立以来、2億5000万ドル以上を提供している。

ワッサーマンとネーゲルがツアーを離脱したきっかけの1つは、エルサレムにある考古学公園デービッドソン・センターへの訪問だった。「嘆きの壁」のすぐ近くにあるが、運営するのは入植者団体のエラド。遺跡の発掘を口実にパレスチナ人を追い出している極右団体だ。あまりの政治的偏向に、あきれ果てた参加者の一部は考古学公園の訪問を拒んだ。

ネーゲルによれば、エーデルソンがドナルド・トランプ米大統領の支持者だという事実も多くの参加者を困惑させていた。「アメリカ右翼的でクレイジーな陰謀論を信じているこの男が、ツアーの費用を負担している。この事実を、私たちはどう受け止めればいいの?」

ごまかしは許されない

バースライトの無料ツアーに反対する活動を続けているアリッサ・ルービンによれば、多くの若いユダヤ人がバースライトに疑問を持ち始め、その「ごまかし」に異議を唱えている。「いまイスラエルを訪問して占領地の問題を議論しないのは、1954年にアメリカ南部を訪れて人種差別問題について議論をしないのと同じだと思う」と、ルービンは言い切った。

バースライトの規模は大きく影響力も強い。だからこそ、イスラエルの置かれた政治的状況を中立的な立場から見せる責任がある――ルービンはそう考える。「嫌なら別のツアーで行けばいいと言う人もいるだろう。でも現実問題として、無料のツアーを提供している団体はごくわずかだ」

本誌の取材に対し、バースライトの広報担当は政治的な意図を否定。この旅は「ユダヤ民族の遺産や価値観、伝統、そしてイスラエルの今を紹介する」ためのものだと強調し、こう付け加えた。「バースライトは政治の話をしない。だから参加者が政治的な議論を持ち出し、他の参加者の体験を邪魔するような行為は容認しない」

そんなツアーに参加した若者たちは気付きを得る。そうか、これが大人の偽善なのかと。

<本誌2018年9月4日号掲載>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
アメリカや中東、アジア、ヨーロッパなど世界の動きから世界経済、キャリア、テック&サイエンス、for Womanの最新トピックまで、ウィークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

MAGAZINE

特集:沖縄ラプソディ

2019-2・26号(2/19発売)

報道が過熱するほど見えなくなる沖縄のリアル 迫る県民投票を前にこの島を生きる人々の息遣いを聞く

人気ランキング

  • 1

    「売春島」三重県にあった日本最後の「桃源郷」はいま......

  • 2

    日本、オランダ、ついにアメリカも 培養肉の時代がやって来る

  • 3

    数百万人の「中年フリーター」が生活保護制度を破綻させるかもしれない

  • 4

    地下5キロメートルで「巨大な生物圏」が発見される

  • 5

    JKビジネスを天国と呼ぶ「売春」女子高生たちの生の声

  • 6

    習近平が仕掛ける「清朝」歴史戦争

  • 7

    ブラック・ユーモアを忘れた日本は付き合いにくい

  • 8

    「死のない肉」クォーンが急成長 人工肉市場がアツい

  • 9

    貧困家庭の女子が人生を見限る「自己選抜」......「…

  • 10

    お金持ちになりたいなら、もっとお金を使おう

  • 1

    13.48秒――世界最速の7歳児か 「ネクスト・ボルト」驚異の運動神経をNFL選手も絶賛

  • 2

    ホッキョクグマ50頭が村を襲撃、非常事態を発令

  • 3

    【動画】子犬の「返品」を断られて激高し、殺してしまった女性にネットが炎上

  • 4

    『ボヘミアン・ラプソディ』を陰で支えた、クイーン…

  • 5

    シロクマに包囲され逃げられないロシア観測隊、番犬…

  • 6

    「制服」少女たちが受ける不快すぎる性的嫌がらせ

  • 7

    地球温暖化で鳥類「血の抗争」が始まった──敵を殺し…

  • 8

    炎上はボヘミアン・ラプソディからダンボまで 韓国…

  • 9

    アリアナのタトゥー炎上と日本人の「不寛容」

  • 10

    南極の氷河の下に巨大な空洞が発見される

  • 1

    13.48秒――世界最速の7歳児か 「ネクスト・ボルト」驚異の運動神経をNFL選手も絶賛

  • 2

    ホッキョクグマ50頭が村を襲撃、非常事態を発令

  • 3

    【動画】子犬の「返品」を断られて激高し、殺してしまった女性にネットが炎上

  • 4

    インドネシアの老呪術師が少女を15年間監禁 性的虐…

  • 5

    小説『ロリータ』のモデルとなった、実在した少女の…

  • 6

    『ボヘミアン・ラプソディ』を陰で支えた、クイーン…

  • 7

    エロチックなR&Bの女神が降臨 ドーン・リチャードの…

  • 8

    口に入れたおしゃぶりをテープで固定された赤ちゃん

  • 9

    恋人たちのハグ厳禁! インドネシア・アチェ州、公…

  • 10

    シロクマに包囲され逃げられないロシア観測隊、番犬…

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
「ニューズウィーク日本版」編集記者を募集
デジタル/プリントメディア広告営業部員を募集
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2019年2月
  • 2019年1月
  • 2018年12月
  • 2018年11月
  • 2018年10月
  • 2018年9月