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ミャンマー

名誉市民、名誉会長取り消しに肖像画撤去...... 地に墜ちたスーチーの栄光

2018年8月29日(水)12時23分
大塚智彦(PanAsiaNews)


ミャンマーによるロヒンギャ族虐殺の跡 ITV News / YouTube

相次ぐ名誉市民の称号取り消し

2018年8月1日、カナダのメディアの報道によると、カナダ・ウィニペグにある人権博物館の評議員リストからスーチー女史の名前が消され、博物館内の一角に飾られていた彼女の肖像写真に当てられていた照明が消されたという。

報道によると同博物館は「ロヒンギャ問題でのスーチー女史の姿勢に対応したのが理由」と説明。照明は消したものの写真を撤去しない理由について「訪れた人にロヒンギャ族に対するスーチー女史の不十分な対応という問題を認識してもらうため」としている。

一方、2017年12月13日にはアイルランドのダブリン市議会がスーチー女史に「民主主義の闘士」として与えていた名誉市民の称号を取り消すことを決定している。2017年8月にロヒンギャ問題が国際的な関心を集めて以降、スコットランドのエディンバラやグラスゴー、英中部のシェフィールド、英北東部のニューキャッスルなどの市議会が相次いで彼女に授与した名誉市民の称号を取り消している。

またロンドン経済大学学生組合はスーチー女性に授与した名誉会長の地位の剥奪を決めたほか、オックスフォード大学セントヒューズカレッジに飾られていたスーチー女史の肖像画が別の絵に差し替えられた。また女史の名を冠したカレッジ内の部屋の名前変更を学生が投票で決めるなど「スーチー女史への評価」が次々と見直される動きが続いている。

報道によればロンドン市や英西部ブリストルにある公立ブリストル大学でも称号などの取り消しが検討されているというが、結論はまででていないという。

ノーベル委員会は取り消し検討せず

スーチー女史のノーベル平和賞を巡っては、過去に同賞を受賞した女性の人権活動家や弁護士、平和運動家などが揃ってスーチー女史に「目を覚ませ」と訴えたり、ネット上で平和賞取り消しを求める署名活動が広がっている。

しかしノルウェーのノーベル委員会はこうした国際世論の動きに対し「取り消しの検討はしない」との立場を表明している。

スーチー女史の母校オックスフォード大学も2012年に授与した名誉学位を見直すことはしないとしながらも「卒業生であるスーチー女史が率いるミャンマー政府が差別と圧力を排除して、ミャンマーの全ての人々の人命を尊重するという価値観を世界に示してほしい」と注文をつけている。

こうした母校の思いはスーチー女史の心に果たして届いているのだろうか。ロヒンギャ問題の解決の道筋は依然として見えてこない。

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