最新記事

ドイツ

エネルギー分野でのロシア依存強く 深まる独メルケル首相のジレンマ

2018年8月14日(火)16時20分

8月6日、過去数十年、「フレンドシップ(友情)」と命名されたパイプラインがロシアから欧州へと石油を供給してきた。写真は2018年5月、ロシア南部ソチで会談するメルケル独首相とプーチン露大統領(2018年 ロイター/Sergei Karpukhin)

過去数十年、「フレンドシップ(友情)」と命名されたパイプラインがロシアから欧州へと石油を供給してきた。冷戦が最も深刻であった時期でさえ、その石油がドイツの家庭に暖をもたらしていたのである。

だが、ロシアからバルト海の海底を経由して直接ドイツに天然ガスを運ぶ新たなパイプラインは、今のところ「友情」とは縁が薄い。ドイツとその同盟国のあいだに不和をもたらし、メルケル首相にとっては頭痛の種になっている。

トランプ米大統領にとって、この新パイプライン「ノルド・ストリーム2」は、ドイツのロシア産エネルギー依存を増大させる「とんでもない」代物である。またロシアの支援を受ける分離独立主義勢力と戦っているウクライナは、この新パイプラインが完成すれば、ロシア政府が高収益で戦略的重要性の高いガス輸送事業からウクライナを締め出すことが可能になるのではないかと懸念している。

メルケル氏にとってはいかにもタイミングが悪い。欧州と米国の同盟関係が揺らぎ、ロシアと中国が自己主張を強めるなかで、メルケル氏は、ドイツが欧州の政治的リーダーとしての役割をもっと担わなければならないと認めてきた。

先月メルケル氏は「グローバル秩序は圧力にさらされている」と語った。「私たちにとって、これは挑戦だ。ドイツの責任は増大している。ドイツはもっと汗を流さなければならない」

メルケル氏は4月、それまでは商業的な事業であると位置付けていた「ノルド・ストリーム2」について、政治的な配慮があることを初めて認めた。

大半の欧州諸国はドイツに対し、欧州としての影響力をもっと行使し、ロシアによる侵食に神経を尖らせる東欧諸国の保護に向けて努力することを望んでいる。

だが、ロシアがドイツに対し天然ガスを輸出する一方でウクライナを迂回できるようにしてしまえば、正反対の結果になってしまう。ウクライナ政府はガス輸送に伴う歳入を奪われ、ウクライナ、ポーランド、バルト海沿岸諸国ではガス供給途絶に対する脆弱性が高まる。

「代償として、バルト海沿岸諸国、ポーランド、ウクライナからの信頼喪失という、さらに大きな損失を被ることになる」と指摘するのは、ドイツ連邦議会外務委員会におけるメルケル氏の盟友であるロドリッヒ・キーズベッター氏。

「我々ドイツ人はいつも、西側の結束を固めることが我々の『重心』であると口にしているが、少なくともエネルギー政策に関しては、ドイツをこうした西側の団結から引きずり出すという点で、ロシアによるアプローチは成功している」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

銃撃されたスロバキア首相、手術後の容体は安定も「非

ワールド

焦点:対中関税、貿易戦争につながらず 米中は冷めた

ワールド

中ロ首脳会談、包括的戦略パートナーシップ深化の共同

ビジネス

東芝、26年度営業利益率10%へ 最大4000人の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 8

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 9

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中