最新記事

アフリカ

南アフリカの土地改革は混乱必至、白人の農地を無補償収用

2018年8月13日(月)15時10分
ブレンダン・コール

南アフリカのフリーステイト州にあるトウモロコシ畑を見回る農場主 SIPHIWE SIBEKO-REUTERS

<憲法を改正してまで黒人への土地再配分を目指す与党の動きに白人系野党の反発が高まっている>

南アフリカにある白人農場経営者の土地を、補償なしで収用できるように憲法を改正しよう。そんな南ア政府の姿勢に、白人系の野党・民主同盟(DA)が反発を強めている。

与党・アフリカ民族会議(ANC)はかねてから、少数派の白人が所有する土地を黒人に再配分する政策を進めている。しかしアパルトヘイト(人種隔離政策)終了から今日までに、白人から黒人に所有権を移転できた土地は全体の約10%。当初目標の3分の1にすぎない。

問題は、土地の再分配が現行の法律で認められるかどうかだった。ラマポーザ大統領は7月31日にこの点を明確にする必要があると語り、憲法第25条の改正を進めると発表した。「補償金なしで土地を収用することについて、憲法による明確な規定を国民が望んでいることは明らかだ」

隣国ジンバブエでは2000年以降に白人の土地の強制収用が行われたが、暴力の連鎖と経済の破綻につながっただけだった。野党陣営は、南アも同じ轍を踏む恐れがあると懸念している。

DAに言わせれば、政府の方針は経済成長と雇用を損ない、「南アフリカ経済の行方を混乱させる危険な賭けだ」。DAのミュシ・マイマネ党首は「土地改革は正義の問題だ。わが党が主導する地方政府の実績で証明されているように、財産権を守り、個人を守ることが不可欠だ。土地改革の推進に新しい憲法は必要ない。必要なのは新しい政府だ」と語っている。

反白人政党は政府に賛同

ウェスタン ・ケープ大学で貧困と土地と農業に関する研究チームを率いるベン・カズンズ教授によれば、ラマポーザがこの時期に憲法改正を発表した目的は、左派政党の「経済自由の戦士(EFF)」から主導権を奪い、国内の黒人の総意に沿う姿勢を示すためだ。「ラマポーザが与党内、とりわけズマ前大統領寄りの派閥から圧力を受けていることは明らかだ。実際、彼には他の選択肢がなかった」

白人の農場経営者らは、自分たちが暴力行為の標的になり、土地を追われようとしていると訴える。実際、EFFのジュリアス・マレマ党首は支持者に、土地を略奪するよう呼び掛けている(ちなみにEFFは大統領の憲法改正発言を、政府が「基本に立ち返った」ものとして歓迎している)。人権団体アフリフォーラムも、白人農家に対する襲撃が急増していると発表した。ただしこれについては事実確認サイト「アフリカ・チェック」が否定している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米GDP、1─3月期は予想下回る1.6%増 約2年

ワールド

米英欧など18カ国、ハマスに人質解放要求

ビジネス

米新規失業保険申請5000件減の20.7万件 予想

ビジネス

ECB、インフレ抑制以外の目標設定を 仏大統領 責
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    自民が下野する政権交代は再現されるか

  • 10

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中