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フォロワー数1位、中国官製報道のSNS適応成功の裏にあるニュース製作「厨房」とは

2018年7月5日(木)11時53分
林毅


中央厨房方式の歴史

主題からは少し離れるが、この中央厨房について説明するために、まず中国の新聞社の解説から出発したい。

彼らはグループ傘下に多くの媒体を抱えている場合が多い。例えば華南地区の代表的な新聞グループである広州日報を例に取ると、看板である広州日報に加えて15の都市報、5つの雑誌社、1つの出版社と2つのウェブサイトを運営する。日本の新聞は全国紙であっても英字紙、こども向け新聞、スポーツ新聞それに雑誌数誌のラインナップであることが多い事がいい比較対象となるだろう。

そうなると、当然同じグループ内に複数の同じ分野の担当記者がいることになる。これは効率の面から見ると最悪だが、発足当時はポストを作る事自体も国の仕事であり、問題とはならなかった。

前回とりあげたように、改革開放が本格化した90年代から状況は変わり始める。ある程度の財政的な自主運営を求められた新聞社グループは、購読収入を増やすための対策として地元密着のネタを取り上げ、もっと庶民に読まれるタブロイド紙「都市報」を創刊させるなどの対策をとってきた。

しかし彼ら本来のいわばレゾンデートルでもある党報の運営はそれはそれとして続けなければならず、補助金などはあるとはいえ、重荷となり続けた。

従って経営効率化は新聞社の大きな関心ごとで、そうした時代背景の中、取材リソース重複の排除と効率化を目的に「中央厨房」方式が試みられるようになった。

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歴史を紐解くと、最も早い例では2007年に広州日報に滚动新闻部という組織を発足させた例がみられる。当初3人の原稿収集担当、3人の映像制作担当、そして編集・取材班の合計9人の構成で、一旦記者たちの原稿をこの部署に集約し、グループ内の各媒体に再配分するという試みだった。しかし媒体間の記事の同質化と内部の生産的でない争いの激化を理由に2,3年でその組織は解消された。

また、同じく07年末には山東省煙台の煙台日報が同じような組織を発足させ、すべての記者が音声・映像などを全範囲で収集し、専門の担当が半製品に加工したのち各媒体に配布し、その媒体が自分の媒体特性に合わせて最終的な形を整えて発表するという形をとった。しかしこれは1人の記者に取材から撮影、録音編集などなんでもやらせるという仕組みが記者の負担になり、次第に廃れていった。

それ以外にも様々な新聞で同様の試みが行われたが、2010年頃までに一旦この流行は収束した。

そうした中でも、並行して急速に進むデジタル化などで新聞閲読の下落傾向はずっと止まらなかった。中央厨房方式が再度脚光を浴びたのはそのデジタル化への処方箋としてで、14年末になって成都传媒集団や前述の广州日报などいくつかの媒体が取り組みを再開し、また翌年の两会にて人民日報と南方报业集团がこの中央厨房方式での報道を行ったことがきっかけだった。

linyi180705-pic6.png

新聞の閲読率。11年からの6年間で半分近くまで落ちていることがわかる(出典:CTR)。

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2年で三倍以上に膨れ上がった人民日報中央厨房

中央厨房が入居する人民日報新媒体大厦
この組織の正式名称は融媒体工作室といい、人民日报媒体技术股份有限公司という子会社が運営する形で16年の2月19日に正式に対外的な活動を開始した。発足を伝える記事では一年以上のトライアルを経て...とあり、恐らく運営会社自体、この中央厨房の運営のために作られたものと思われる。経緯を簡単に時系列でまとめると以下のようになる。

2014年3月6日 人民日报媒体技术股份有限公司(PDMI)設立。主要株主は人民日报社、环球时报社、中国能源汽车传播集团有限公司で、資本金1億元。内部にてトライアル開始。ちなみに中国能源汽车传播集团有限公司は人民日報の投資で作られた車関係の雑誌の発行元なので、実質一社出資ということになる。

2016年2月19日 15の部門(単位から)から、60余名の記者が参加し活動開始。

2016年10月 参加の工作室のひとつ新地平线工作室が初の作品「航天长征人,为你读长征任仲平」を発表。

2017年1月 人民日報内に散在していた人員を北京市朝陽区金台西路二号、人民日報本社の裏手の「新媒体大楼」の10階に集約。3200平方㎥以上。

18年5月にサイト上で確認できる限りでは、所属が「29の部門から200人」に増加。

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期待される役割

人民日報の中央厨房は上述のように直面するふたつの課題、つまり対内的な「経営リソースの効率化」と対外的な「デジタルネイティブ国民の教化宣撫」を解決するために発足した。

また、そうした大目的以外に、多くの取材・制作ツールのクラウド・マルチデバイス化や、ウェブ記事執筆の補助ツールなども導入されており、こうした技術の実験場になっていることも見て取れる。

その他にもダッシュボード的に一覧できる世論監視・可視化システム(下記の总编调度中心の前面に設置されている巨大スクリーンがそれ)も導入されている。整理された情報があるわけではないが、どのチャネルでシェアされているか、筆者別のランキング(ボーナスや給与にも影響するらしい)、エリアごとの分析や対比などが提供されているようだ。

linyi180705-pic7.jpg

ウェブコンテンツ制作支援の「可视化产品制作平台」

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