最新記事

世界貿易戦争

米中貿易戦争、裏ワザの超法規的「報復」を中国がもくろむ

CHINA’S NEXT STEPS

2018年7月24日(火)11時00分
ビクター・ファーガソン(オーストラリア国立大学政治・国際関係大学院博士課程学生)

第3の措置は、事業免許制度を通じた営業妨害だ。中国ではほとんどのビジネスに免許が必要とされるが、その取得プロセスは「曖昧で、漠然としており、裁量的である」と、最近のホワイトハウスの報告書は指摘している。2017年以降、韓国のビデオゲームメーカーは中国で事業免許を取得できなくなっており、米企業も事業免許の取り消しや、取得プロセスの遅延といった事態に直面する可能性がある。

中国が取り得る第4の措置は、海外旅行の規制だ。中国政府はこれまでにも、旅行代理店に団体旅行の販売を禁止するなどして、買い物好きな中国人観光客がフィリピン、台湾、韓国に渡航するのを制限してきた。これにより韓国の観光業界は推定156億ドルの損失を被り、40万2000人の雇用が失われたとされる。

訪米中国人の多くは個人旅行者だから、同じような規制は難しいかもしれない。それでも中国政府は最近、アメリカでは詐欺や殺人が増えているとして、正式に渡航注意を喚起した。この影響で渡米者が減れば、中国人がアメリカにもたらす観光収入(年間330億ドル)が減少する恐れがある。

第5の手段は、アメリカ製品と企業の非公式ボイコットだ。2012年に尖閣諸島(中国名・釣魚島)の領有権争いが深刻化すると、中国政府は国営メディアを通じて日本企業のボイコットを一般市民にそそのかした。この結果、多くの日系商業施設、工場、企業が大きなダメージを受けた。

同じ手法が米企業に対しても取られれば、中国の消費者は国内に3300店舗あるスターバックスを避けたり、iPhoneではなく小米(シャオミ)科技のスマートフォンを買ったりするようになるかもしれない。

こうした質的措置は中国にも痛みをもたらすだろう。ターゲットとなった米企業の中国人社員が失業したり、中国の下請け企業が経営難に陥ったりするかもしれない。だが、アメリカの輸出産業や、中国本土で事業活動をする米企業、そしてアメリカの消費者はもっと大きなダメージを受ける可能性が高い。他方、アメリカ製品の代替に選ばれた中国のメーカーは、長期的な市場シェア争いで優位に立つだろう。

また、5つの措置は超法規的性格のものだから、中国は柔軟に(別の言い方をすれば恣意的に)運用することができるし、WTO(世界貿易機関)のルールに明確には違反していないと言い逃れすることもできる。さらに今後の貿易交渉で、中国はこれらの措置を撤回する「譲歩」を持ち掛けることで、アメリカからもっと実質的な譲歩を引き出すこともできるだろう。

アメリカも当面は、報復関税合戦を続けることができる。しかし中国と同じレベルの質的報復措置を取るのは難しいだろう。アメリカでは外国企業の事業活動と投資活動を守るシステムが確立されているからだ。しかし「量的かつ質的」措置をちらつかせる中国との貿易戦争においては、アメリカの先進的なシステムが、アメリカ自身にダメージを与える可能性がある。

From thediplomat.com

【参考記事】赤字は本当に悪い? 今さら聞けない貿易戦争の基礎知識

※本誌7/31号(7/24発売)「世界貿易戦争」特集はこちらからお買い求めいただけます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

維新、連立視野に自民と政策協議へ まとまれば高市氏

ワールド

ゼレンスキー氏、オデーサの新市長任命 前市長は国籍

ワールド

ミャンマー総選挙、全国一律実施は困難=軍政トップ

ビジネス

ispace、公募新株式の発行価格468円
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 6
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 7
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 10
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中