最新記事

薬物汚染

フィリピンで麻薬対策を小学生まで拡大、持ち物検査に検尿まで 教育界は猛反発

2018年7月11日(水)19時20分
大塚智彦(PanAsiaNews)

「超法規的殺人」で4200人以上が犠牲に


「超法規的殺人」では昨年8月に17歳の高校生キアン・ロイド・デロス・サントスが警察に殺されるという事件も起きている ABS-CBN News / YouTube

ドゥテルテ政権が政権発足(2016年6月)後に本格的に開始した麻薬犯罪関連容疑者への厳しい対応は現在も続けられている。捜索現場などで抵抗、逃走した容疑者にはその場での武器使用、つまり射殺を躊躇するな、という強硬策は「司法手続きを経ない超法規的殺人」として内外の批判にさらされている。

国家警察は「捜査現場で容疑者が武器を所持している、抵抗した、逃走した、などという場合に限って警察官は武器を使用しており、人権侵害との指摘は当たらない」との見解を繰り返し、これまでに警察官によって射殺された容疑者は4200人以上としている。

人権団体などによるとさらに多くの犠牲者が報告されているが、その中には正体不明の犯人による殺人、ライバル麻薬組織などによる私的処刑、どさくさに紛れた麻薬と無関係の殺人などが含まれ、死者の総数は8000人以上との情報もある。

こうした「仁義なき戦い」が繰り広げられているフィリピンの麻薬戦争に、小学校生徒までを含めた「麻薬対策」の拡大導入が果たしてどんな混乱を教育現場に惹起させることになるのか、教育省など教育関係者は深刻に受け止めている。

ドゥテルテ大統領の支持率は最低に

こうしたなか、フィリピンの民間調査機関である「ソーシャル・ウェザー・ステーション(SWS)」が7月10日に最近のドゥテルテ大統領の支持率調査の結果を発表した。

6月27日から30日の間、全国の成人1200人を対象にした調査でドゥテルテ大統領への「支持」を表明したのは65%、「不支持」は20%、「どちらでもない」が15%となった。

支持の65%は前回調査の2018年3月より5%下がり、過去最低だった2017年の67%より低い数字で、大統領就任以来最低の結果となった。SWSの分析によるとドゥテルテ大統領の支持は都市部(59%=前回より13%減)と貧困層(63%=同7%減)での下落が顕著だったとしている。

就任直後は約80%という高支持率だったドゥテルテ大統領も国民が感じることのできる経済再生策の効果も乏しく、以前よりは過激度や回数が減ったものの相変わらずの問題発言や振る舞いに、都市部住民や日々の暮らしが精一杯の貧困層では人気に翳りが出てきたとみられている。

麻薬対策にしても麻薬組織や麻薬犯罪との関係が取りざたされた市長が暗殺されるなど、相変わらず治安は悪い。そうした現在の麻薬対策が教育現場に持ち込まれることで、麻薬犯罪の低年齢化を防ぐことができるのか、あるいは教育現場が混乱するのか、PDEAと教育界の対立が続いている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ネクスペリア中国部門「在庫十分」、親会社のウエハー

ワールド

トランプ氏、ナイジェリアでの軍事行動を警告 キリス

ワールド

シリア暫定大統領、ワシントンを訪問へ=米特使

ビジネス

伝統的に好調な11月入り、130社が決算発表へ=今
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 5
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 6
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中