最新記事

貿易戦争

米中貿易戦争はトランプに勝算、エコノミストが予想

2018年7月6日(金)20時30分
プロニタ・ナイドゥ

アメリカは戦う準備万全

中国が報復措置に出て貿易戦争が本格化するリスクが危惧される一方、短期的にはアメリカの力強い経済成長や強いドルで、異例の高関税がかけられても損失を回避できる、と予想するエコノミストもいる。

「今のところ貿易全体に占める制裁関税の割合は小さいことから、われわれはアメリカや中国の国内総生産(GDP)の予想値はまだ変更していない。たとえ米中間で言葉の応酬が激化しても、現実の金額の上でもっとずっとエスカレートしなければ影響は小さい、と見ている」、とエングルンドは言う。 

貿易戦争の長期化に対する企業の不安を吹き飛ばすほど米経済は堅調だ、と独金融大手ドイツ銀行のエコノミストはNewsweek/IBTの調査に回答した。ドイツ銀行は、貿易戦争が株式投資で得られる利益に与える影響は最小限で、2018年の株式相場はさらに上昇する、と予想している。

アジア市場に暗雲

米ネット証券最大手のチャールズ・シュワブのチーフ投資ストラテジスト、リズ・ソンダースもこう書いた。「(株式市場は)少なくとも一時的には、前向きの情報で心配を克服し、『心配の壁』をよじ上っているようだ」

外国為替市場のボラティリティ(価格変動率)の高まりは今後も続きそうだが、強いドルは維持され、逆にアジアの為替市場が急落する可能性がある、とアナリストは予想する。中国の人民元が下落するにつれ、アジアの新興市場の為替は低迷する見込みで、特にトランプの貿易戦争に相場を左右されやすい韓国のウォンや台湾のドルなどは、下落する可能性が高いという。

実際、中国が保有する1兆2000億ドル相当の米国債を大量売却すると脅しても、少なくとも短期的には無駄だ。

DBS銀行のマクロ経済ストラテジスト、ネイサン・ハン・ライ・チョウは、中国が米国債の購入ペースを落とすことはあっても、大量売却はしないはずだ、と言う。「アメリカが米国債の売却に対抗するのは難しくない。連邦制度準備理事会(FRB)はいつでも米国債を買い増す準備ができている。次の質問は、米国債を売却後、他にどんな選択肢が中国にあるかだ。米国債以外に大した運用先はない。ユーロ圏の国々が発行する国債の利回りはゼロに近い」

それでも、トランプが始めた貿易戦争が最後はアメリカ経済にも大打撃を与える可能性は否定できない。

「さらなる関税障壁や非関税障壁を一方的に相手国に課すことになるような、貿易紛争の相当程度激化しているのは事実だ」と、カナダのスコシアバンクのチーフエコノミスト、ジャンフランソワ・ペローは言う。「2019年には、貿易面の不確実性はアメリカの成長率の足を引っ張る要因になるだろう」

コンティナム・エコノミクスの予想はもっと深刻だ。報復関税の応酬はアメリカの経済成長を脱線させるかもしれないと。希望は、貿易戦争の当事者がいずれはテーブルについて交渉し、市場の心配を取り払ってくれることだ。そうすれば経済への悪影響は最小限に抑えられる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

核保有国の軍拡で世界は新たな脅威の時代に、国際平和

ワールド

米政権、スペースXとの契約見直し トランプ・マスク

ワールド

インド機墜落事故、米当局が現地調査 遺体身元確認作

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、円安で買い優勢 前週末の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中