最新記事

犯罪対策

インドネシア、首都の強盗増加に警察が強硬姿勢「抵抗すれば射殺!」

2018年7月5日(木)19時37分
大塚智彦(PanAsiaNews)

油断できない交通機関利用

ジャカルタではウーバーやゴジェック、グラブなどスマートホンのアプリで利用できるバイクや自動車の配車サービスが大人気だが、最近は配車サービスで呼んだタクシーでの強盗被害も増えているという。

女性一人が夜に車両を利用する場合、車内後方の荷物置き場に別の男性が隠れていたり、途中から無断で乗り込んできたりして金品を強奪するという手口だ。警察などでは夜の女性一人の利用を控えるよう呼びかけるとともに、もし利用する場合は乗車する前に車内の点検を求めている。

バイクの後席に乗るバイクタクシーはそうした被害が少ないものの、追い抜き際やすれ違いの際にハンドバックやリックが奪われる事件も多発しているという。

ジャカルタの日本大使館はこうしたタクシーなどの強盗、パンク強盗、スリ・置き引きなどの犯罪に対する注意警戒をホームページなどで呼びかけている。2018年1月にはジャカルタ市内の公共交通機関であるトランス・ジャカルタのバスを利用していた日本人が刃物による強盗被害に遭い現金やクレジットカードの入った財布を奪われる事件も起きている。

殺しのライセンスの危険性

インドネシアのジョコ・ウィドド政権は麻薬対策にも力を入れており、フィリピンのドゥテルテ大統領の施策をまねた訳ではないが、麻薬関連事案の対応には銃器の使用を躊躇することなく射殺も止むなし、との方針を全ての警察官に指示している。実際にジャカルタ西方の海岸で麻薬を密輸入しようとした台湾人がその場で射殺されている。

このほかテロ対策でも現場での射殺は頻繁に起きており、警察官による銃器使用、被疑者、犯人の射殺は相当の頻度で起きている。

今回「ストリート・クライム」対策には管区警察官からなる13チーム、首都圏警察官からなる3チームの合計16チームの1000人が投入され、8月3日まで市内各所で警戒、摘発に専門的に当たるとしている。

問題は警察官の射撃の腕前で、かつて警察官による威嚇射撃が致命傷になったり、近くにいた別人が負傷したりと事件が続発、マスコミが「警察官の射撃能力が低すぎる」との記事を掲載したことがある。

その際の警察側の言い分がすごい。「射撃は難しい、なんなら記者の皆さんも実際に射撃をしてみるといい。目標に的確に当てることがいかに困難か体験すれば、こんな記事は書けないだろう」。これに記者たちが「我々は記者であり射撃に関しては素人である。冗談じゃない」と提案を拒否したことは当然だ。

要するに「殺しのライセンス」を付与された警察官たちの射撃の腕にはいささか問題があるということで、007のような正確な射撃が期待できないのに治安を任せて大丈夫なのかという懸念が強く残っているのだ。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

ニューズウィーク日本版 世界が尊敬する日本の小説36
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月16日/23日号(9月9日発売)は「世界が尊敬する日本の小説36」特集。優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、FOMC通過で ダウ上昇

ビジネス

米0.25%利下げは正しい措置、積極緩和には警鐘 

ビジネス

BofA、米国内の最低時給を25ドルに引き上げ 2

ビジネス

7月の機械受注(船舶・電力を除く民需)は前月比4.
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 5
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中