最新記事

北朝鮮

金正恩の「美少女調達」システムに北朝鮮国民が怒り

2018年7月2日(月)12時20分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

夫人の李雪主とともにモランボン楽団のメンバーを激励する金正恩(14年5月) KCNA-REUTERS

<金正恩の叔父、張成沢の粛清をきっかけに、政府に選ばれた少女たちの一部が権力者の性の玩具にされていることを北朝鮮国民は知ってしまった>

北朝鮮国営の朝鮮中央通信は30日、金正恩党委員長が中国との国境に面した平安北道(ピョンアンブクト)の薪島郡(シンドグン)を視察したと伝えた。同郡には、2011年に「経済地帯(特区)」に指定された鴨緑江(アムロッカン)河口の中州・黄金坪(ファングムピョン)も含まれる。黄金坪は中国との共同開発計画があるが、主導していた張成沢(チャン・ソンテク)元党行政部長が処刑されて以降、中断している。

張成沢氏の処刑は、北朝鮮の政治経済に様々な影響を与えた。多くの人々が「一味」と見られて粛清され、その中には北朝鮮きっての「イケメン」と言われた元俳優や、同氏と愛人関係にあった元スター女優のキム・ヘギョンもいた。そうして消し去られた人の数は1万人とも言われ、北朝鮮社会が負った人材面でのダメージは小さくなかったはずだ。

参考記事:【写真】女優 キム・ヘギョン――その非業の生涯

しかしそれ以上に深刻なのが、北朝鮮国民の胸の内に芽生えた疑いと怒りだ。韓国に亡命した太永浩(テ・ヨンホ)元駐英北朝鮮公使が近著『3階書記室の暗号 太永浩の証言』(原題)で明かしているところによれば、北朝鮮国民は張成沢氏の愛人関係が明るみに出るに従い、権力層の腐敗堕落ぶりを知ることになった。日本では、故金正日総書記が愛した「喜び組」の存在はよく知られた話だが、北朝鮮の庶民は、そういったことをまったく知らない。

参考記事:【動画アリ】ビキニを着て踊る喜び組、庶民は想像もできません

実は、朝鮮労働党の中枢機関である組織指導部には、「権力層に仕える女性」を選抜、管理する特別なセクションがある。その名も「5課」。中央から道・郡・市などの末端にいたるまで組織網を張り巡らせ、14~16歳の美少女を選抜し、各種の専門家に養成するのだ。選抜された女性たちは、「5課対象」「5課処女」などと呼ばれる。朝鮮語で「処女」は若い女性や未婚女性を指す言葉で、日本語の「乙女」のニュアンスに近い。

5課の存在は、以前から北朝鮮国民の間で広く知られていた。太永浩氏によれば、北朝鮮の庶民は従来、娘がこのような対象に選抜されることを喜んでいたという。名誉でもあるし、選抜された少女の家庭には様々な恩恵が与えられるからだ。

ところが張成沢氏の粛清をきっかけに、5課に選ばれた少女たちの一部が権力者の性の玩具にされていることを、北朝鮮国民は知ってしまったのだ。

太永浩氏は前述した著書の中で、次のように言っている。

「北朝鮮国民は張成沢の不正と醜聞を通じ、腐敗堕落した白頭の血統の実像を目撃した。金氏の家門は共産主義とプロレタリア独裁の皮をかぶり、あってはならない奴隷社会を建設した。私は張成沢粛清が、今後、金正恩政権のアキレス腱になると見ている」


[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米政府、輸送中のイラン産原油売却を容認 30日間の

ワールド

米、イラン戦争の目標達成に近づく=トランプ氏

ワールド

イラク、外国企業運営の油田で不可抗力宣言 ホルムズ

ワールド

英、米軍による基地使用承認 ホルムズ海峡攻撃巡り 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公開...母としての素顔に反響
  • 2
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラリアの「NVES規制」をトヨタが切り抜けられた理由
  • 3
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 4
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 5
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 6
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「嘘でしょ!」空港で「まさかの持ち物」を武器と勘…
  • 9
    将来のアルツハイマー病を予言する「4種の先行疾患」…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 5
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 6
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 9
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 10
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中