最新記事

インドネシア

あの男が帰ってくる ! ポルノ法違反の過激なイスラム急進派代表が逃亡先から

2018年6月20日(水)19時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

大統領候補擁立の動きも


FPIハビブ・リジック・シハブ代表に対する「ポルノ規制法違反」の警察による捜査打ち切りを伝える現地メディア KOMPASTV / YouTube

もっとも「逃亡生活」というイメージとは裏腹に、シハブ容疑者は支援者などからの多額の献金や支援でサウジアラビアのメッカで優雅な生活を送る一方、インドネシアから聖地への「大巡礼(ハッジ)」や「小巡礼(ウムロ)」などに訪れる政界要人、宗教指導者と次々と面会してはその写真がネット上で公開され、海外でもその存在感を支援者に見せつけていた。

2018年6月2日には、かつての民主化運動の指導者の一人として大学生や都市部のインテリ層に人気があったものの、近年は野党の立場から反ジョコ・ウィドド大統領の姿勢を鮮明にしている国民信託党(PAN)のアミン・ライス最高顧問会議議長と面会。同席したのは2019年の大統領選で再びジョコ大統領に挑戦することを明言している野党グリンドラ党党首で独裁政権のスハルト大統領のかつての女婿だったプラボウォ・スビヤント氏で、この会合で反大統領派の結束を確認したとのニュースも流れた。一説では支持団体が大統領選にシハブ代表を担ぎ出そうとの動きもあり、この日の3者会談では大統領選での候補者選定の生臭い協議も行われたといわれている。

捜査中断の背景には政治的思惑も

シハブ代表のポルノ規制法違反容疑の捜査中止は「わいせつな会話をしたとされるチャットアプリの画像の出どころが確定できなかったため」と警察は説明しているが、捜査開始から1年以上経過した後のこの判断は誰が見ても通常ではなく、なんらかの政治的背景に基づくものとの見方が有力だ。

インドネシアは6月27日に統一地方首長選挙、8月には来年の大統領選に向けた正副大統領候補の届け出締め切り、そして来年の大統領選と国会議員選挙と政治日程が続き、熱い政治の年を迎えつつある。

ジョコ大統領は「イスラム教徒への配慮が乏しい」と一部のイスラム教組織から批判を受けている。こうした中で急進派代表とはいえ、一部の狂信的な支持者がいるシハブ代表とグリンドラ党、PANなどの野党勢力が手を結ぶ動きをみせていることを重く見て、「捜査当局による言われない弾圧」とのFPI側の主張が大統領選で政治的に利用されることを回避するため止むを得ない措置をとったのではないかとの見方もある。

ジョコ大統領側にしてみれば、来年の大統領選で堂々と野党候補と選挙戦を戦うためにも、反大統領の急先鋒を形成している一部のイスラム急進派、そして一部野党勢力との間にいささかも「政治的瑕疵(かし)」との批判を受ける余地を残さないための方便というわけだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

EXCLUSIVE-中国BYDの欧州第3工場、スペ

ビジネス

再送-ロシュとリリーのアルツハイマー病診断用血液検

ワールド

仮想通貨が一時、過去最大の暴落 再来に備えたオプシ

ワールド

アルゼンチン中間選挙、米支援でも投資家に最大のリス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃をめぐる大論争に発展
  • 4
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中