最新記事

若者

高齢者の負担で若者に一時金を──「世代間格差」解消へ英シンクタンク

2018年5月29日(火)20時00分
ベンジャミン・フィアナウ

レゾリューション財団が2017年に実施した世論調査によれば、「両親より良い生活を手に入れられるか」という質問で、イギリスは先進国の中で最も悲観的な材料が多い国の一つだった。

ミレニアル世代の3人に1人は生涯持ち家を所有できそうにないし、政治アナリストのリンゼイ・ジャッジによれば「若者たちの収入の大半は住宅費に消えて、それでも親世代より小さな賃貸物件にしか住めない」と指摘する。

教育や起業の展望も暗い。英財政学研究所が2017年に発表した報告書によれば、イギリスの学生は平均5万800ポンド(約740万円)、より貧しい家庭の出身なら5万7000ポンド(約830万円)の借金を抱えて卒業することになる。

また英国家統計局によれば、イギリスの起業件数は年間41万4000件にのぼるものの、破綻件数も32万8000件にのぼる。1万ポンドの給付金では起業して事業を継続のは難しそうだ。

一時金は解決策にはならない

一方で、高齢化による財政負担は年々重くなっている。レゾリューション財団の上級経済アナリスト、スティーブン・クラークは、これから高齢化が進むベビーブーム世代が退職して年金や住宅手当などの各種手当を受給するようになるにつれ、その財政負担は劇的に増加すると言う。その負担を担うことになるのが、既に十分な負担を担っているミレニアル世代だ。

今回の提言には、各方面から批判の声が上がっている。経済問題研究所は、高齢者から吸い上げたお金を若者にあげるやり方は、低所得の高齢者を不公平に「罰する」ものだと指摘。同研究所のケイト・アンドリューズはCNBCに対して、「高齢者にも低所得者がいるし、若者にも高所得者がいる。年齢を基準に現金を移動させるやり方は、進歩的とは言い難い」と語った。「一時的なバラまきなどを行えば、若者たちが大人になるための壁を乗り越えようとするときのやる気を挫きかねない」

若者の経済的な未来が不安なのはイギリスだけではないようだ。アメリカの複数のシンクタンクも悲観的な報告書を発表している。

たとえば人材斡旋会社チャレンジャー・グレイ&クリスマスが5月7日に発表した報告書は、伝統的な小売店がオンライン小売業者との競争に負けて潰れたため、学生の夏のアルバイト先が減っていると指摘。10代の若者の労働参加率は34.8%と、1989年の56%から20ポイント近く下落している。

(翻訳:森美歩)

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア西部2州で橋崩落、列車脱線し7人死亡 ウクラ

ビジネス

インフレ鈍化「救い」、先行きリスクも PCE巡りS

ワールド

韓国輸出、5月は前年比-1.3% 米中向けが大幅に

ワールド

米の鉄鋼関税引き上げ、EUが批判 「報復の用意」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 2
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 3
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 4
    「ホットヨガ」は本当に健康的なのか?...医師らが語…
  • 5
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    メーガン妃は「お辞儀」したのか?...シャーロット王…
  • 8
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 9
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 10
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 3
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 4
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 6
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 10
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 7
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 10
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中