東宝、海外進出を再起動 ハリウッド版「ゴジラ」と「君の名は。」へ共同製作出資

2018年5月15日(火)13時40分
数土 直志(ジャーナリスト)※東洋経済オンラインより転載

「もちろん東宝の看板は最大限活用しています。世界3番目の映画市場でトップを維持していて、『ゴジラ』というIP(知的財産)もあります。メジャースタジオには東宝の名前は必ずインプットされています。洋画配給の東宝東和を通じた関係性がメジャースタジオとすでに構築されていたこともメリットです」

やはり東宝ブランドの存在感は小さくない。東宝東和の代表取締役を長らく務めた松岡氏の人脈やビジネスノウハウも活かされたのは想像に難くない。しかしブランドだけでビジネスが進むわけではない。さらにこれを支えるのが企画力だ。



newsweek_02.jpg


松岡宏泰(まつおか ひろやす)/東宝株式会社 取締役 映像本部映画営業担当 兼 同国際担当 兼 西日本映画営業担当。2016年より現職を務める(撮影:今井康一)

「企画がよくなければ(海外の)スタジオも興味を持ってくれません。今回の3作品はどれも魅力的です。だからお話ができた」とコンテンツの強さを理由に挙げる。そしてこの企画について、東宝には独自の方向性がある。

「今後も出資を考えています。ただすでにある企画の中で、難しい企画であれば『どうぞ』と言われますが、いい企画であれば『いやですよ』で終わります。ですからわれわれは自分たちから企画を持ち込みます。その条件として日本配給と出資をさせていただきますと。さらにクオリティをコントロールするために製作にも声を出します。そのためにも出資者であるべきだと考えています」

外からの声をかかるのを待つのでなく、自ら企画を生みだす攻めの姿勢。ここに製作の根幹からかかわるカギがある。

「『ゴジラ』では1998年の作品(トライスター・ピクチャーズ)も含めて出資はせずに、2014年の『GODZILLA ゴジラ』でも国内配給権以外の権利は持ちませんでした。ただ今回は粘り強く交渉をしました。相手も理解してくれることで最終的に『ゴジラ2』への出資に至ったわけです」

巧みな交渉は3つのプロジェクトに参加するアメリカ側の映画会社が、それぞれワーナーブラザース、ユニバーサル、パラマウント・ピクチャーズと異なることにも表れている。ハリウッドメジャー3社と並行して交渉することも、今回は大きな力を発揮したはずだ。

「いい意味での東宝らしさは、どなたとでも広くお付き合いをすること。海外でもそれでいいのでないかと思います。特定のスタジオとがっつり組む選択肢もありますが、単独スタジオで作品を複数同時に展開するのが難しい」

なぜ一度縮小した海外事業をまた目指す?

そもそも東宝は、なぜ海外事業にこれほどまで積極的になったのだろうか。実は東宝の海外進出は、今回が初めてでない。1950年代、1960年代に東宝は、ニューヨークやロンドン、パリ、ブラジルといった世界各国に拠点を持っていた。それを1980年代、1990年代にかけてしだいに縮小していった。

1980年代以降の縮小を、「日本映画は映画祭では評価されても、商業的にはなかなか評価されなかった。そのなかで、海外事業をこのまま展開していいんだろうかと考えたのでは」と松岡氏は説明する。1980年代、1990年代の国内映画産業は今ほど好調でなく、国内市場を支えるのに手いっぱいといった事情もあっただろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、円は日銀の見通し引き下げ受

ビジネス

アップル、1─3月業績は予想上回る iPhoneに

ビジネス

アマゾン第1四半期、クラウド事業の売上高伸びが予想

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中