最新記事

米外交

トランプ「独自外交」の怖さはここにある

Presidents often reverse US foreign policy

2018年5月14日(月)19時00分
チャールズ・ハーマン (テキサスA&M大学教授)

5月11日、トランプ米大統領の核合意離脱表明に抗議して星条旗に火を付けるイランの人々(首都テヘランで) Tasnim News Agency-REUTERS

<北朝鮮との首脳会談に応じ、イスラエルの米大使館をエルサレムに移し、6カ国で合意したイラン核合意から一方的に離脱するなどのトランプ外交の危険性は、独自外交が失敗したときに過ちを認められるかどうかかかっている>

ドナルド・トランプ米大統領は5月8日、アメリカのイラン核合意からの離脱を表明した。バラク・オバマ前大統領が15年に欧州の同盟国やロシア、イランなどの国々と苦労してようやくまとめ上げた合意をひっくり返す決断だ。

トランプが外交政策を覆すのはこれが初めてではない。

現職のアメリカ大統領としては過去に例がない北朝鮮との首脳会談を計画しているのもその一つ。他にも、環太平洋諸国の貿易協定TPPからの離脱を表明し、イスラエルの米大使館をエルサレムに移転するという危険な決断を下し、鉄鋼とアルミニウムへの輸入に追加関税を課したりもしている。

こうしたトランプの決断は激しい批判を招いてきた。

果たしてトランプは、ただの外交の素人なのだろうか。米外交を専門とする学者として私は、これまで多くの大統領たちが国際関係において政策転換を行ってきたのを知っている。

中にはうまく行ったケースもあるが、多くは反対に直面した。だが結局のところ、アメリカの国家安全保障にとって重要なのは、外交政策の転換がうまく行かなかった場合に大統領がどう対応するかだ。

反対されたかどうかは問題ではない

当初は過激に思えた政策転換が、後の歴史で評価されることもある。

1947年に当時のハリー・トルーマン大統領は、連邦議会に対しギリシャやトルコなど共産主義に取り込まれつつあった国々への大規模な軍事的・経済的支援を認めるよう求めた。

議会共和党は予算の大幅削減を求めており、トルーマンの案に反対した。左派からも、アメリカは非民主国家への支援を行うべきではないとの声が上がった。

だが最終的に、「アメリカは専制主義の脅威にさらされているあらゆる国に政治的・経済的・経済的支援を行うべきである」とする「トルーマン・ドクトリン」はアメリカの政策の基本となった。

ジミー・カーター大統領は、パナマ運河のパナマへの返還に同意したために高い政治的代償を支払わされた。世論調査では合意に反対する人が半数以上に上った。

上院は運河の返還を定めたパナマとの条約を承認したが、票差はたったの1票だった。カーターを支持した複数の議員が、その後の選挙で議席を失った。カーター自身、80年の大統領選挙で返還を批判したレーガンに大敗を喫した。だが今になってみれば、パナマ運河がパナマに帰属するのはごく自然なことに思える。

また、89年にはベルリンの壁崩壊を受け、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領が東西ドイツの統一を支持すべきかどうかの決断を迫られた。

ドイツが先の2つの大戦を引き起こした記憶がまだ鮮明だった欧州の同盟諸国は、統一に激しく反対した。ソ連のミハイル・ゴルバチョフ大統領も同じだった。アメリカの新聞は統一を警戒する社説を掲載した。

だがブッシュの考え通り、東西ドイツは統一された。そしてNATOに加盟し、今や欧州の民主諸国のリーダーだ。

大統領による外交政策の転換の背後にはさまざまな理由がある。

トルーマンは国際的な危機への対処として政策転換を選んだ。カーターは自らを、世界におけるアメリカの役割を変えるために選ばれた「門外漢」だと捉えていた。ブッシュ父は冷戦に終止符を打とうと考えた。また、中心的な支持層にアピールするために政策転換を行うケースもある。

失敗がさらなる失敗を呼ぶ2つのパターン

トランプの政策転換もたぶん、そうした要因がいくつも絡み合っているのだろう。

動機が何であれ、現時点で何より重要なのは、トランプの政策が失敗した場合に何が起きるかということだ。

間違った対応をすれば危険を招きかねないことは歴史が証明している。

79年のイランで起きたアメリカ大使館人質事件がいい例だ。解放に向けた外交交渉は失敗に終わった。当時のカーター大統領は、かなりの犠牲が出かねないにも関わらず、いくつかの選択肢の中から救出作戦 を選んだ。失敗や損失を経験すると、人はそれを取り返そうとして大きなリスクを冒しがちだということはよく知られているが、これはまさにその好例と言えるだろう。

結局、人質救出作戦は失敗に終わった。作戦では2機の軍用機が空中衝突し、8人が死亡、4人が重傷を負った。

イラク戦争中のジョージ・W・ブッシュ大統領の対応は、別のタイプの危険行動 に当てはまる。当初の案がうまく行っていない場合、人は方針転換するか、それともリスクを恐れず同じ道を進むかの決断を迫られる。たとえ状況が悪くても、方針を変えずに深入りすることを選ぶ人は多い。

2006年の時点で、イラク戦争におけるアメリカの旗色は悪くなっていた。世論調査では57%がブッシュを支持しないと答え、イラクからの米軍撤退を求める人もほぼ同じ割合に上った。

ブッシュの軍事顧問たちはイラク駐留米軍の規模を縮小し、戦闘はイラク政府軍に任せることを進言した。だが06年、ブッシュは戦闘部隊を増派。多少の成果は上がったが、戦争終結には遠く至らなかった。

私の考えでは、大統領がこうした危険な意志決定行動を回避するのに役に立つ2つの要素がある。

1つ目は強力で独立心の強い顧問たちだ。例えばキューバ危機において、ジョン・F・ケネディ大統領は厳しい決断を迫られた。空爆に踏み切るべきか、キューバに侵攻すべきか、それとも封鎖を選ぶべきか――。

10人を超えるケネディの顧問たちは、それぞれの案のいい点と悪い点について精力的に議論した。批判し、問いを投げかけ、忌憚のない考えを述べることに前向きだった彼らの姿勢が、アメリカを核戦争から救ったと言える。

だがトランプはと言えば、顧問たちに率直な意見より忠誠心を求めることで知られている。トランプの決断に疑問を投げかけたりすれば、地位を失いかねない。

自分で冷静な分析ができればいいが

大統領本人の柔軟な対応も危険回避には役に立つ。

例えば1983年、当時のレーガン大統領は米海兵隊を、内戦が激化するレバノンの国際平和維持活動に送り込んだ。中立国の軍隊が駐留すれば秩序は回復できるはずだというのが当初のレーガンの考えだった。

だが実際には、米海兵隊は格好の標的になってしまった。10月にはベイルートの海兵隊兵舎が自爆テロに襲われ、実に200人以上が死亡した。これを受けてレーガンは状況分析をやり直し、撤退という結論に達したのだ。

イラン核合意からの離脱をめぐるトランプの決断はこれとは対照的だ。外部の状況が彼の当初の損得勘定と矛盾していても政策を修正する意志などうかがえない。

核合意からの離脱を表明した際、トランプはイギリスやドイツなど他の国々もアメリカに追随し、イランへの再制裁に参加すると見込んでいた。

だが欧州諸国はトランプ案に強く反発。制裁に加わる気はないとはっきり表明した。それでもトランプは既定の路線を突き進む構えだ。

アメリカ大統領の歴史をひもとけば、今のようなホワイトハウスの姿勢が危険なのは明らかだ。トランプ大統領の政策の一部が失敗に終わるのは避けがたい。失地挽回のための試みが、さらにアメリカを危機の泥沼に叩き込む可能性もある。

(翻訳:村井裕美)


Charles Hermann, Senior Professor, and Brent Scowcroft Chair Emeritus, Bush School of Government & Public Service, Texas A&M University

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.

ニュース速報

ワールド

イタリアで高速道路橋が崩落、少なくとも35人死亡

ワールド

トルコ、米電化製品を「ボイコット」 大統領がドル売

ワールド

英国会議事堂前で車が突っ込み2人負傷、男1人を逮捕

ビジネス

中国、固定資産投資が過去最低の伸び 一連の指標で景

MAGAZINE

特集:奇才モーリー・ロバートソンの国際情勢入門

2018-8・14号(8/ 7発売)

日本とアメリカ、世界の知られざる針路は── 異能のジャーナリストによるホンネの国際情勢解説

※次号は8/21(火)発売となります。

人気ランキング

  • 1

    亡くなった人の気配を感じたら......食べて、寝て、遊べばいい

  • 2

    死後世界も霊魂もないなら何をしてもいい──を実行した人がいた

  • 3

    「家賃は体で」、住宅難の英国で増える「スケベ大家」

  • 4

    中国大手32社が「不審死&経営難」海南航空と同じ運…

  • 5

    子供の亡骸を16日間も離さない母シャチの悲嘆「もう…

  • 6

    性的欲望をかきたてるものは人によってこんなに違う

  • 7

    「トランプが大豆産業を壊滅させた」──悲鳴を上げる…

  • 8

    サーモンを愛する「寿司男」から1.7mのサナダムシ発見

  • 9

    人類史上最も残虐な処刑は「首吊り、内臓えぐり、仕…

  • 10

    崩れ落ちる中国経済 住宅ローン地獄で家計債務がリ…

  • 1

    子供の亡骸を16日間も離さない母シャチの悲嘆「もう見ていられない」と研究者

  • 2

    ウェスト81センチの巨漢ネコ、パーフェクトボディ目指し監視下に置かれる

  • 3

    全長7mの巨大ヘビが女性を丸のみ インドネシア、被害続発する事情とは

  • 4

    「家賃は体で」、住宅難の英国で増える「スケベ大家」

  • 5

    イルカとクジラのハイブリッドを確認、世界初

  • 6

    「乱交」で種の境界を乗り越えるサル

  • 7

    人類史上最も残虐な処刑は「首吊り、内臓えぐり、仕…

  • 8

    「いっそ戦争でも起きれば」北朝鮮国内で不気味な世…

  • 9

    亡くなった人の気配を感じたら......食べて、寝て、…

  • 10

    サーモンを愛する「寿司男」から1.7mのサナダムシ発見

  • 1

    アマゾンのジャングルに1人暮らす文明と接触のない部族の映像を初公開

  • 2

    子供の亡骸を16日間も離さない母シャチの悲嘆「もう見ていられない」と研究者

  • 3

    全長7mの巨大ヘビが女性を丸のみ インドネシア、被害続発する事情とは

  • 4

    人類史上最も残虐な処刑は「首吊り、内臓えぐり、仕…

  • 5

    インドの性犯罪者が野放しになる訳

  • 6

    怒りの僧侶、高野山への外国人観光客にナナメ上の対…

  • 7

    「何か来るにゃ...」 大阪地震の瞬間の猫動画に海外…

  • 8

    イルカとクジラのハイブリッドを確認、世界初

  • 9

    「家賃は体で」、住宅難の英国で増える「スケベ大家」

  • 10

    実在した...アレクサに怒鳴る男 絶対にお断りした方…

資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版

特別編集 ジュラシックパークシリーズ完全ガイド

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2018年8月
  • 2018年7月
  • 2018年6月
  • 2018年5月
  • 2018年4月
  • 2018年3月