最新記事

東南アジア

マレーシア総選挙、野党連合が勝利 独立以来初の政権交代実現、マハティール氏が首相に返り咲き

2018年5月10日(木)10時15分
大塚智彦(PanAsiaNews)


注目選挙区で野党勝利、「歴史的な日」

マレーシア総選挙の開票速報を特別番組で伝えていたシンガポールの「チャンネル・ニュース・アジア」は野党連合の勝利の可能性が高くなった時点で「マレーシアにとって歴史的な日となった」と伝えた。

開票作業が進む中、マハティール元首相は地元のランカウェイで44.4%を獲得し、与党連合候補者の23.6%を大きく引き離して議席を獲得した。一方、ナジブ首相もペカン選挙区では79.2%と圧倒的な強さで当選を決めたものの、歴史的にBNの強固な地盤とされてきたジョホール、ネグリ・スンビランなどでBN候補者が野党候補に敗北した。

特にジョホールはBNの中核をなす「統一マレー国民組織(UMNO)」誕生の地とされる地盤で、ここでの敗北が今回の総選挙を象徴する結果となった。

このほか注目選挙区のペナン、セランゴール、マラッカ、ケダなどでも希望同盟の候補者が次々と当選を決め、政権交代に勢いをつけた。

金権体質脱却、有権者は変化を選択

ナジブ政権側は選挙戦後半に野党連合の健闘が伝えらえて危機感を強めた結果、「15、16日を休日とする」「26歳以下の所得税を免除(すでに納税した人には全額返還)」などの追加公約を相次いで公表するなどして懸命の情勢挽回を計った。

しかし「誰もそんなことに関心はない」(マハティール元首相)との指摘通り、与党連合が弱いとされる都市部若年層の支持を回復することはできなかった。

ナジブ首相は政府系ファンドの「ワン・マレーシア・デベロップメント(1MDB)」の巨額資金流用疑惑に端を発した金権汚職体質で野党側から厳しい批判にさらされていた。最終的にはこうした反ナジブの流れが有権者に「金権体質脱却」と「変革」を選択させたものとみられている。

野党関係者は「選挙戦でのナジブ政権の露骨なバラマキ政策が逆効果に働き、そうではなくても根強かったナジブ首相の金権体質批判にさらに油を注ぐ結果となったのではないか」と冷静に分析する。

9日の投票結果で野党が政権を担うことになり、マレーシアは独立以来初の政権交代が実現する。マハティール元首相は世界最高齢の92歳での首相就任となるほか、ナジブ首相批判を強めて与党UMNOを離脱した2004年以来の国政復帰、2003年10月の首相退任以来となる首相返り咲きを果たすことになった。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

ニューズウィーク日本版 脳寿命を延ばす20の習慣
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年10月28日号(10月21日発売)は「脳寿命を延ばす20の習慣」特集。高齢者医療専門家・和田秀樹医師が説く、脳の健康を保ち認知症を予防する日々の行動と心がけ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国シャオミ、スマホ製造コスト上昇 メモリー半導体

ワールド

メキシコ農相が来週訪米、畜牛輸出巡り協議へ=シェイ

ワールド

英首相、ベトナム共産党書記長と来週会談 両国関係格

ビジネス

焦点:不安消えないニデック、第3者委調査が焦点 事
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 2
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシアに続くのは意外な「あの国」!?
  • 3
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼稚園をロシアが攻撃 「惨劇の様子」を捉えた映像が話題に
  • 4
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 5
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 6
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 7
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 8
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 9
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 10
    「石炭の時代は終わった」南アジア4カ国で進む、知ら…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 9
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 10
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中