最新記事

朝鮮半島

「中国排除」を主張したのは金正恩?──北の「三面相」外交

2018年5月2日(水)16時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

それも複雑で、人民元が流布するということは、すなわち中国経済に呑みこまれることを意味する。金正恩は、それを警戒している。

中国経済に呑みこまれたくない北朝鮮

とても信じられないとは思うが、習近平とあそこまで親密にしてアメリカを牽制しようとしている金正恩だが、それでも一方では、「中国排除」を狙っているのは事実のようだ。

その証左の一つが「3者協議」を提案したのが北朝鮮側であるということと、もう一つは「在韓米軍の駐屯」を必ずしも否定しないことにある。

なぜか――?

中国に呑みこまれたくないからだ。

在韓米軍はたしかに北朝鮮にとっては直接の敵対的存在だが、韓国と仲良くなってしまえば、特段の害はない。それよりも、在韓米軍がいる方が中国に対して大きな抑圧となり、中国を牽制することができる。中国を「のさばらせたくない」と思っているのは、実は北朝鮮なのである。

中国は社会主義国家における改革開放を強化して北朝鮮とも「紅い団結」を組み、自国における一党支配体制を維持しようと必死だが、その裏で金正恩は、したたかに動いている。つまり、中朝首脳会談の裏でも、やはり「中国は1000年の宿敵」という位置づけは、ひょっとしたら変わっていないのかもしれない。李英和教授も、この見解を支持している。

いざとなったら軍事的には中国を頼りにしているくせに、経済的には中国に呑みこまれたくはない。金正恩はしたたかな「三面相」外交を展開しようとしているとみなすべきだろう。

王毅外相の訪朝目的

その意味で、2日の王毅外相による訪朝は、「そんな」北朝鮮を説得し、もし「中国排除」などをもくろむのであれば、「容赦はしない!」ことを告げに行くためだったことは間違いない。その前の水面下の交渉で、金正恩は降参して「3者協議」を放棄し、「4者協議」になったようだが、これは日本にとっては「とんでもないチャンス!」となる可能性を秘めている。

日本には又とない「絶好のチャンス!」

北朝鮮はしたがって、韓国やアメリカとだけでなく、日本とも経済関係を強化しようと考えていると見るべきなのかもしれない。

あの「紅い中国」の強権的発展を抑え込む手段が、実は「北朝鮮の存在」だとすれば、これは日本にとっては又とない「絶好のチャンス!」であり、アメリカもまた大歓迎するだろう。

核兵器の完全撤廃も重要だが、北朝鮮の経済発展の潜在力と「北朝鮮の存在そのもの」を、日本はしたたかな外交で深慮しなければならないのではないだろうか。


endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 5

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中