最新記事

マネー

スイスフランの安全神話崩壊? ロシアの富豪たち、逃避資金引揚げも

2018年5月1日(火)15時42分


政治よりも脱税摘発

だが、今年に入ってからのロシアマネーの潮流とスイスフランの相場変動とのあいだに何らかの関係があっても不思議はない。それも、最近になって新たに課せられた制裁以外の部分における関係だ。

「ロシア逃避資本の本国還流は現実のテーマだが、最新の地政学的な緊張は、根本的な理由というよりは、単に火に油を注いだにすぎない」と、コンサルタント会社TSロンバードのマネージング・ディレクターであるクリストファー・グランビル氏は語る。

ロシアは2016年、脱税摘発に向けた経済協力開発機構(OECD)のイニシアチブ「金融口座に関する自動的情報交換」に参加したが、スイスを含む参加国間の情報交換プロセスが稼働開始したのは、2018年1月になってからだと、グランビル氏は指摘する。

「ロシア納税者としては、もはやスイスに資産逃避しても安心できなくなった以上、資産を自国に引揚げて、タックス・アムネスティ(租税特赦)を活用し、(ロシアの)税率13%で納税した方がいいかもしれないと感じている」とグランビル氏は言う。

この措置に伴い、どれだけの資金がロシア本国に還流したかは不明だが、中銀のデータによれば、ロシア向けの資金流入のうち約5分の1は、スイスから流入した個人資産だった。

そして過去2カ月の推移をみると、スイスフランは実際、ルーブルに対して約5%下落している。

それと同時にロシアは、租税特赦や特別債券プログラムを使ったり、さらには引揚げていない還流資産に対する処罰をちらつかせたりすることで、オフショア資産が本国に還流するよう圧力をかけている。

ロシア財務省の政策当局者は、ここ数カ月で「数十億ドル」の資産が国営銀行に流入しているとロイターに語り、OECDの自動的情報交換プログラムにより、この流れはさらに加速すると予想した。

「制裁と自動的情報交換プログラムのうち、どちらの効果がより大きいのかは分からない」と同当局者は語った。「資産家らは、資産の逃避先をわれわれが追跡できるとは思っていなかったが、今では、大半が申告を始めている」

(翻訳:エァクレーレン)

Tom Finn

[ロンドン 20日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、28年副大統領候補への出馬否定 「あざ

ビジネス

米国株式市場・午前=主要3指数、日中最高値 米中貿

ワールド

ロシア大統領、北朝鮮外相と会談 両国関係は「全て計

ワールド

トランプ氏、ベトナム産コーヒーの関税免除 貿易協定
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 3
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下になっていた...「脳が壊れた」説に専門家の見解は?
  • 4
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 5
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 6
    中国のレアアース輸出規制の発動控え、大慌てになっ…
  • 7
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 8
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中